11 / 16
旅行で一番楽しいのは出かける前日だよね。
しおりを挟む
俺と太郎さんの初温泉デート。
二人で家の外に出たのなんて、思い返せばこれが初めてになるかもしれない。
「一緒に家を出て、一緒に家に帰れるなんて幸せですね」
「そだねー」
家族、って気がする。
口にはしないけど、たぶん慈郎さんも同じ思いだろう。
「ねぇ慈郎さん」
「なんですか、太郎さん」
「この掛け合いってさ、なんか昔話みたいで好きなんだよね、俺」
おじいさんとおばあさんは幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん、で終わる感じの。
「あぁ、確かに。
今となっては太郎と次郎なんて名前を兄弟でつける人もほとんどいませんしね」
「俺たちは兄弟ですらないけど」
「もう家族なのですからいいじゃないですか」
「こりゃ一本取られた!」
あはは、と俺は笑う。
本当の慈郎さんの家族はどうなってんの~?とか、絶対に聞けない。
慧慈郎、という名前はたぶん本名だと思うし、その名前をパソコンの前で検索してみようと思ったのも事実。
慈郎さんほどの優秀なαなら、名前を検索すれば、どこかしらにその痕跡が残されている可能性は十分ある。
多分、そこそこいいお家に育った人だと思うんだ、この人は。
「慈郎さんってば俺みたいなやさぐれβの家族になっちゃって大丈夫??」
「あぁ、言い方を間違いました。私は太郎さんの家族になるのではなく、旦那さんになるんでしたよね」
それって確認してるんじゃなくて、念押してるだけだよね?慈郎さん。
まぁ養ってもらう気満々な俺に文句を言う気なんてさらさらないけれども。
「つまり、今度の旅行は私たちのハネムーンということになるのではないでしょうか」
「婚前旅行の間違いじゃない?」
「世の中には事実婚という言葉がありますので。
あぁ、正式な手続きは後で弁護士を通してきちんとやっておきますからご心配なく」
「そこはもう承諾済みって認識なのね、なるほど」
「それはもうなる早で」
「なるはや……どこで覚えたの?そんな言葉」
慈郎さんってば何しても可愛い。
本当に可愛い。
最近俺が読んでたラノベで勉強したのか、変な言葉を使いたがる所も無茶苦茶可愛い。
「でも、サブローさんの事は本当にいいんですか?」
「うん。竹脇に温泉行くっつったら、ペット連れは何かと大変だからやめとけって言われて」
本当はサブローさんにも蟹を食べさせてあげたかったのだが、残念ながら今回は断念した。
有休の件を聞きつけ、スマホに鬼電してきた竹脇に「温泉行ってくるね~!」と惚気まくったら、根掘り葉掘り追及された挙句、言われたのがそれ。
温泉旅行を止められなかったことは逆に不思議だが、サブローさんの件に関してだけは、「土地勘のない場所で猫が迷子になったら二度と戻ってこないぞ、いいのか!?」と、強めに忠告された。
「それ聞いて前にさ、どっかの高速のインターで迷子猫の張り紙見たの思い出しちゃって」
『絶対見つからないよなー』、なんて言ってる周囲の声が悲しかったし、多分そうなんだろうな、と心のどこかで思ってしまう俺自身もなんだか嫌で。
「連絡先として書いてある住所がそこから100キロ以上離れた場所でさ。
そんな場所からわざわざ一緒に旅行に連れてきた猫を、見知らぬ土地に置いて帰らなきゃいけなかった人達は、無茶苦茶後悔したんだろうな、とか。なんかそういうの思い出して」
純粋に、それだけは絶対に嫌だな、と思ったんだよな。
「太郎さんは優しいですね」
「いんや、ただ臆病なだけだと思う。
慈郎さんも、俺から離れていくときはお願いだから一声かけてってね?」
「そんなことをサラッと言えてしまう太郎さんが心配なので、何があっても絶対に太郎さんからは離れないようにします」
慈郎さんに心配されるレベルの俺のメンタル、闇深すぎの自覚はちょっとだけある。
「ま、部長がサブローさんを預かるって言いだしたのは予想外だったけど」
「お子さんが軽い猫アレルギーでこれまで猫が飼えなかったんでしたっけ?」
「そう。ちょっとしたレンタルキャット気分でうきうきみたい」
竹脇から連絡があった後、やはり今からでもペットホテルを探してみるべきかと二人で話し合っていたその最中、救いの神は現れた。
竹脇から旅行の件を聞かされた部長が、うちのサブローさんを家で預かってくれると申し出てくれたのだ。
「まぁ、部長にはこれまで何回もサブローさんの写真を見せてるし、一回生で触ってみたかったんだって」
「以前猫を飼っていたこともあるというのなら、お世話も安心ですしね」
「部長が仕事で家にいない間は、部長ん家のお子さんが交換で面倒見に来てくれるって話」
「猫アレルギーは大丈夫なのですか?」
「大人になってからはほぼ問題ないレベルだってさ。短時間なら大丈夫だって医者のお墨付きももらったみたい」
要は、あの家族はみんな揃ってうちのサブローさんにメロメロなのである。
「太郎さんは部長一家と面識が?」
まぁそこ、不思議に思うよね。
「あるよ。下の女の子に頼まれて 一緒に部長のサプライズ誕生日パーティーやったことあるし」
部下と娘による渾身の手作りケーキとか、正直意味不明なプレゼントだったが。
息子から手渡された花束を腕一杯に抱え、滅多にない満面の笑顔を浮かべた部長の姿は今でもいい思い出だ。
ナチュラルに部長宅の家族写真に納まる俺。
ちなみにその写真は、今でも部長宅のリビングに大切に飾られているという。
その子供達二人からは、「たくさんサブローちゃんの写真撮って送ります!」という頼もしいメールが送られてきており、お迎えの準備は万端な模様。
猫好きなのにアレルギーで猫が飼えないというのは、案外あるあるな話のようだ。
ちなみに実はサブローさんは雌なので、二人はサブローさんを「ちゃん」で呼ぶ。
なんか北島〇郎みたいでちょっとおっさん臭い、と内心で思ったのは内緒だ。
「つまり、部長さんにとっては太郎さんも自分の息子のようなもの……ということなのでしょうか
」
「あぁ、確かにそんな感じなのかも。息子の嫁に来いとか言われたし」
「行きませんよね?」
「うん、目が怖い。目が怖いよ、慈郎さん」
ただの冗談にそこまで過敏に反応しないでほしい。
本当に、心臓がどきどきするから。
「あっちの兄妹にとっちゃ、俺って年の離れた上の兄枠なの」
だからそういう話とかは、正直全然実感がわかない。
「なぜ職務上の上司と家族ぐるみの付き合いをするように?」
「今日の慈郎さんはぐいぐいくるな~、まぁいいけどさ」
聞いて楽しい話ではないが、聞きたいというのなら何でも教えてあげよう。
「それはね、俺が慈郎さんと出会う前のお話です」
二人で家の外に出たのなんて、思い返せばこれが初めてになるかもしれない。
「一緒に家を出て、一緒に家に帰れるなんて幸せですね」
「そだねー」
家族、って気がする。
口にはしないけど、たぶん慈郎さんも同じ思いだろう。
「ねぇ慈郎さん」
「なんですか、太郎さん」
「この掛け合いってさ、なんか昔話みたいで好きなんだよね、俺」
おじいさんとおばあさんは幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん、で終わる感じの。
「あぁ、確かに。
今となっては太郎と次郎なんて名前を兄弟でつける人もほとんどいませんしね」
「俺たちは兄弟ですらないけど」
「もう家族なのですからいいじゃないですか」
「こりゃ一本取られた!」
あはは、と俺は笑う。
本当の慈郎さんの家族はどうなってんの~?とか、絶対に聞けない。
慧慈郎、という名前はたぶん本名だと思うし、その名前をパソコンの前で検索してみようと思ったのも事実。
慈郎さんほどの優秀なαなら、名前を検索すれば、どこかしらにその痕跡が残されている可能性は十分ある。
多分、そこそこいいお家に育った人だと思うんだ、この人は。
「慈郎さんってば俺みたいなやさぐれβの家族になっちゃって大丈夫??」
「あぁ、言い方を間違いました。私は太郎さんの家族になるのではなく、旦那さんになるんでしたよね」
それって確認してるんじゃなくて、念押してるだけだよね?慈郎さん。
まぁ養ってもらう気満々な俺に文句を言う気なんてさらさらないけれども。
「つまり、今度の旅行は私たちのハネムーンということになるのではないでしょうか」
「婚前旅行の間違いじゃない?」
「世の中には事実婚という言葉がありますので。
あぁ、正式な手続きは後で弁護士を通してきちんとやっておきますからご心配なく」
「そこはもう承諾済みって認識なのね、なるほど」
「それはもうなる早で」
「なるはや……どこで覚えたの?そんな言葉」
慈郎さんってば何しても可愛い。
本当に可愛い。
最近俺が読んでたラノベで勉強したのか、変な言葉を使いたがる所も無茶苦茶可愛い。
「でも、サブローさんの事は本当にいいんですか?」
「うん。竹脇に温泉行くっつったら、ペット連れは何かと大変だからやめとけって言われて」
本当はサブローさんにも蟹を食べさせてあげたかったのだが、残念ながら今回は断念した。
有休の件を聞きつけ、スマホに鬼電してきた竹脇に「温泉行ってくるね~!」と惚気まくったら、根掘り葉掘り追及された挙句、言われたのがそれ。
温泉旅行を止められなかったことは逆に不思議だが、サブローさんの件に関してだけは、「土地勘のない場所で猫が迷子になったら二度と戻ってこないぞ、いいのか!?」と、強めに忠告された。
「それ聞いて前にさ、どっかの高速のインターで迷子猫の張り紙見たの思い出しちゃって」
『絶対見つからないよなー』、なんて言ってる周囲の声が悲しかったし、多分そうなんだろうな、と心のどこかで思ってしまう俺自身もなんだか嫌で。
「連絡先として書いてある住所がそこから100キロ以上離れた場所でさ。
そんな場所からわざわざ一緒に旅行に連れてきた猫を、見知らぬ土地に置いて帰らなきゃいけなかった人達は、無茶苦茶後悔したんだろうな、とか。なんかそういうの思い出して」
純粋に、それだけは絶対に嫌だな、と思ったんだよな。
「太郎さんは優しいですね」
「いんや、ただ臆病なだけだと思う。
慈郎さんも、俺から離れていくときはお願いだから一声かけてってね?」
「そんなことをサラッと言えてしまう太郎さんが心配なので、何があっても絶対に太郎さんからは離れないようにします」
慈郎さんに心配されるレベルの俺のメンタル、闇深すぎの自覚はちょっとだけある。
「ま、部長がサブローさんを預かるって言いだしたのは予想外だったけど」
「お子さんが軽い猫アレルギーでこれまで猫が飼えなかったんでしたっけ?」
「そう。ちょっとしたレンタルキャット気分でうきうきみたい」
竹脇から連絡があった後、やはり今からでもペットホテルを探してみるべきかと二人で話し合っていたその最中、救いの神は現れた。
竹脇から旅行の件を聞かされた部長が、うちのサブローさんを家で預かってくれると申し出てくれたのだ。
「まぁ、部長にはこれまで何回もサブローさんの写真を見せてるし、一回生で触ってみたかったんだって」
「以前猫を飼っていたこともあるというのなら、お世話も安心ですしね」
「部長が仕事で家にいない間は、部長ん家のお子さんが交換で面倒見に来てくれるって話」
「猫アレルギーは大丈夫なのですか?」
「大人になってからはほぼ問題ないレベルだってさ。短時間なら大丈夫だって医者のお墨付きももらったみたい」
要は、あの家族はみんな揃ってうちのサブローさんにメロメロなのである。
「太郎さんは部長一家と面識が?」
まぁそこ、不思議に思うよね。
「あるよ。下の女の子に頼まれて 一緒に部長のサプライズ誕生日パーティーやったことあるし」
部下と娘による渾身の手作りケーキとか、正直意味不明なプレゼントだったが。
息子から手渡された花束を腕一杯に抱え、滅多にない満面の笑顔を浮かべた部長の姿は今でもいい思い出だ。
ナチュラルに部長宅の家族写真に納まる俺。
ちなみにその写真は、今でも部長宅のリビングに大切に飾られているという。
その子供達二人からは、「たくさんサブローちゃんの写真撮って送ります!」という頼もしいメールが送られてきており、お迎えの準備は万端な模様。
猫好きなのにアレルギーで猫が飼えないというのは、案外あるあるな話のようだ。
ちなみに実はサブローさんは雌なので、二人はサブローさんを「ちゃん」で呼ぶ。
なんか北島〇郎みたいでちょっとおっさん臭い、と内心で思ったのは内緒だ。
「つまり、部長さんにとっては太郎さんも自分の息子のようなもの……ということなのでしょうか
」
「あぁ、確かにそんな感じなのかも。息子の嫁に来いとか言われたし」
「行きませんよね?」
「うん、目が怖い。目が怖いよ、慈郎さん」
ただの冗談にそこまで過敏に反応しないでほしい。
本当に、心臓がどきどきするから。
「あっちの兄妹にとっちゃ、俺って年の離れた上の兄枠なの」
だからそういう話とかは、正直全然実感がわかない。
「なぜ職務上の上司と家族ぐるみの付き合いをするように?」
「今日の慈郎さんはぐいぐいくるな~、まぁいいけどさ」
聞いて楽しい話ではないが、聞きたいというのなら何でも教えてあげよう。
「それはね、俺が慈郎さんと出会う前のお話です」
0
あなたにおすすめの小説
流れる星は海に還る
藤間留彦
BL
若頭兄×現組長の実子の弟の血の繋がらない兄弟BL。
組長の命で弟・流星をカタギとして育てた兄・一海。組長が倒れ、跡目争いが勃発。実子の存在が知れ、流星がその渦中に巻き込まれることになり──。
<登場人物>
辻倉一海(つじくらかずみ) 37歳。身長188cm。
若い頃は垂れ目で優しい印象を持たれがちだったため、長年サングラスを掛けている。 組内では硬派で厳しいが、弟の流星には甘々のブラコン。
中村流星(なかむらりゅうせい) 23歳。身長177cm。
ストリートロックファッション、両耳ピアス。育ててくれた兄には甘えん坊だが、兄以外の前では──。
表紙イラストは座頭狂様に描いて頂きました✨ ありがとうございます☺️
起きたらオメガバースの世界になっていました
さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。
しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。
こんにちは、付喪神です。
江多之折(エタノール)
BL
すみません、息抜き用に連載に昇格しました。そっと連載してる。
背後注意のところに※入れる感じでやります
特に大切にされた覚えもないし、なんならUFOキャッチャーでゲットしてゲーセンの袋に入れられたまま年単位で放置されてたけど、神、宿りました。 見てください、人型です。…なんで?
あ、神といっても特別な能力とかないけど、まぁ気にせず置いといて下さいね。宿ったんで。って汚?!部屋、汚ったな!嘘でしょ?!
え?なんですか?ダッチ…?
社畜気味リーマン(Sっ気有)×付喪神(生まれたての家政婦)の短編。じゃなくなった。でもゆるめ。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる