眠れるsubは苦労性

あうる

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「「は?」」

あ、社長と声がハモったうわ……じゃなくて、え?

「随分長い間離れていたので、彼は私の事をすっかり忘れてしまっているようですが……」

少し寂しそうに視線を斜めに反らす……とかもはや狙っているとしか思えない。
あざとさの化身、紬を相手にしているこちらを舐めるなよ、と妙なところで張り合った俺の横っ腹に、社長の肘が容赦なく入る。

「おいこら綾史、現実逃避してる場合じゃないって、幼馴染とかなんだそりゃ?どっからそんな設定持ってきた」
「知りませんよ、こんな美形知り合いにいないしっ!そもそも四宮なんて知り合い遡ったって一人もいませんよ!」
「絶対?」
「多分」
「多分じゃねぇか!もしかして一方的にあっちがお前を知ってて幼馴染呼ばわりしてたらどうすんだよ!」
「本人を前にしてストーカー呼ばわりはどうかかと思いますよ、社長……」

小声って、案外近くにいれば筒抜けなもんだ。
聞こえないふりをしてくれているだろう四宮専務に本当に申し訳ないと思いつつも、心当たりがないものはしょうがない。

「あの……大変申し訳ない話なのですが、何かのお間違いでは?」
「ーーー高倉綾史さん、ですよね?」
「はぁ、まぁそうですが……」

確かに珍しい名前ではあるが、唯一無二というわけでもないし。
俺たちのどう考えても失礼な態度を咎めるでもなく、ゆっくりこちらに距離を詰めてきた四宮専務。

「覚えていない?俺だよ、あやちゃん」
「「……あやちゃん?」」

あ、またしても社長とハモってしまった…。
夫婦が似てくるってきっとこういう事だよな、長く傍にいすぎたのかもと妙なことを考えながら、あやちゃんなんてそんな名前、紬ですら呼ばないものをと思った瞬間、ふと、頭の中を何かよぎった。
頭の片隅に、確実に何かが引っ掛かって―――――。

「―――そうちゃん?」

つい、ポロリと口をついて出た名前は、ずいぶん昔にいなくなった俺の―――――――。


え。え。え。え。

まじか。


俺はもう一度目の前の四宮専務の顔をまじまじと見つめた。
名前を呼ばれたことをわかってか、明らかに先ほどまでと様子が変わっている。
遠慮なく俺の傍までやってくると、その手をとり、ぎゅっと握りしめられた。


「そうだよ、あやちゃん。久しぶりだね。まさかこんなところで会えるなんて思っていなかった。
迎えに行ってあげられなくてごめん」

「「は」」

あぁ、また社長と……って、二度あることは三度ある、そういうことかとおかしな現実逃避をしながら、俺は茫然と目の前の端正な顔をまじまじ見つめる。
今更ここにきて無作法だとか、失礼だとかそんなことを言い出すような人ではないはずだ。
そもそも、自分の知っている人物という同一ならば、この人は。

「迎えにって……そんな約束したっけ?」
「したよ。君は随分弱っていたから、忘れてしまったのかもしれないけど……。いつか必ず誰にも邪魔されない力をつけて君を迎えに行くと約束した」

ちょ、辞めてほしい。
今の俺は、気を逆撫でて警戒する猫そのものだったと思う。

「うわー。幼馴染とかまじなのか綾史。ってかなんだその青春フラグ」
「社長、ウケてないで助けてくださいよ…」
「いや、助けるって言ったってお前らの事情知らないし。あ、結城の奴に連絡してやろーっと」
「ボヤにガソリンぶっかけて山火事おこすような真似辞めてもらえます!?」

しかもその会話の間もまだ手は離れていない!どうするこれ!

「あ、あの……?」
「いや、すまない、覚えていてくれたことが思いのほか嬉しくて…。君は小さかったから、私の事なんてすっかり忘れているかと…」
「小さいって……。俺の知っている人とあなたが同一人物なら、俺と一歳しか変わりませんよね?」
「そうそう、んで俺の二つ下」
「社長は黙って……ってかやっぱりそうなのか……」

本当に本人なのか、正直顔を見ただけではよくわからない。
なにしろ。

「幼馴染とはいっても、一緒に過ごしたのは幼稚園の頃だから・・・・2歳~5歳位の事ですよ?幼児の時の記憶なんてそんな…」

覚えていないわけではないが、はっきり仔細まで思い出せるかと言われれば、御免なさいと頭を下げるしかない。


「その位の頃に一緒にいたってことは、ご近所さんとかか?」
「ええ、お隣に住んでたシングルマザーのうちの子供で……」

面倒見がよくて、幼児にしてはしっかりした子だった。
俺はその頃小児喘息を患っていてほとんど幼稚園にも行けず、近所に越してきたそうちゃんだけが唯一のお友達という有様。
今思えば病弱な年下の子供の世話など面倒な年ごろであろうに、嫌がらずによく一緒に遊んでくれたものだ。
思い出せば色々と感慨深いものはあるが……それにしても劇的ビフォーアフターしすぎじゃないか。


「でも確かそうちゃんの苗字は……」
「昔は島田、と名乗っていた」
「そうそう、島田。しまだそうちゃんだ……」

だんだんとはっきりしていく記憶。
それを嬉しそうに見つめる顔が、少しずつではあるが、昔の幼馴染の顔と重なっていくような気が……しないな。
うん、無理だ。さすがに無理がある。

「あ~と?つまり、例の一件で偶然うちの高倉が君の古い友人であると気づいてコンタクトを取りたくて連絡した……ということであっているかな?謝罪というのは名目?」
「名目というわけでは。今回の件に関しては相手が誰であろうと心からの謝罪をしなければと思っていました。
権力でもってdomがsubを虐げるような真似をすることは許せません」
「ほ~?」

友達の友達は友達、というか。
後輩の幼馴染はもれなくいたぶっていい相手と社長の中で認識されたらしい。
慇懃無礼だった様子からは随分ましになったが、取引先の上役を相手にするには不遜な態度のまま、「へー」「そういうこと」「ふーん」とじろじろ彼を観察する社長。

「できれば今日、少しだけでも二人で話をできればと思ったんだが……」
「あ、じゃあこれ俺のーーーーー」
「あやふみ~?」
「は?社長?」

特に何の警戒心もなくスマホを取り出した俺の首根っこを掴む社長。

「そういうプライベートな同窓会ノリを俺の前でやるのはやめてくれる?これ、一応仕事だからね?」
「あ、そうでした」

確かに、道でばったり昔の友人に会った時と変わらない態度で対応してしまった。
隣にいるのはただの先輩ではなく職場の上司で、今は仮にも仕事中だ。

「大変失礼いたしました、四宮専務」

きっちり頭を下げれば、「その必要はありません、今日はむしろこちらの謝罪のためにおいでいただいたわけですし、それと――――」
「それと?」

突っ込んだのは社長だが、俺も気になる。
幼馴染を偶然見つけたから声をかけた、さてそこから先は?

「君に会うための口実が欲しかっただけだから」
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