保護猫subは愛されたい

あうる

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「晶。教えて?わたしの権利とは何だい?」

コマンドを使えば簡単なことのはずなのに、優しく問いただしてくれる。
この人は、本当に素晴らしい主人だ。

「ねぇ晶。君のこれからの人生は全て私のものだと誓っただろう?
それならば、私のこれからの人生もまた、全て君のものにしてはいけないのかい?」

目を合わせ、言い聞かせるようなマスター。
勿論、自分の持ちうるものなら全てマスターに差し出して構わない。
けれど、逆に差し出されたものに対して不安に思ってしまうのは私の愚かさ故だ。

「マスター………」
「今更、手放せはしないよ?」
「離れたら生きていけません」
「なら、最後までずっと2人で生きるんだ。
そのための今日であり、この男だからね」 

マスターから視線を向けられた彼がドンと胸を叩く。

「なぁに、僕に任せておけば何も心配ないさ!戸籍上はこの雄吾が養父という形になるけど、同時にパートナー申請も行うから、公的な場所でも伴侶としてちゃんと扱ってもらえるし。domsubによくあるプレイパートナーの契約とは全くの別物だから、保険金の受取人にだってなれる!」
「保険なんていりません」

マスターの死なんて考えたくもない。
嫌な話題だ。
そう思ったのもそこまでだった。
彼はこれまでのどこか戯けた雰囲気を一変させると、私の傍らに膝を付き、真摯に言葉を重ねた。

「僕が言いたいのはね、君の保険の受取人も、これからは雄吾にできるということだ。
君だっていい年齢だし、社会人経験者なら保険の一つや二つはかけているだろう?受取人は君のご両親かな?」
「……はい」

独身者には、受取人は身内しか存在しない。 
それ故に、これまでは母を受取人としていたが、それだって半ば義務的なもので、普段意識したこともなかった。
それが、まさか。

「なら、それも後で籍を入れてから変更の手続きをしよう。構わないかな?」

保険。
私がマスターに残せるもの。
意味のないと思っていたものが、やっと大きな役割を得た。

「はい!!ありがとうございます!」

自分だけがマスターの負担になるのではという不安を見透かしたようなその提案は、まさに目からウロコで。
どこかぼんやりと来た夢見心地からようやく戻ってこれたような気すらする。

「旭、お前は……」
「感謝の言葉は結構だよ!勿論雄吾の保険も全て変更しておくから、バッチリお任せさ」

何かを言いたげなマスターの言葉を封じ、
私に視線を向けてウィンクしながら笑う彼。

「……互いの存在に保険などありえないが、少なくとも互いへの愛情が、目に見える形で残せるものだからね」

マスターが金銭面で困ることなどありえないことは知っているし、金などなんの意味もないことは百も承知。

けれど、たとえ形式だけであったとしても、なにかマスターに残せるものがあるのは嬉しい。

私がそう感じるであろうことを、彼は既に予想していたのだろう。

「これからは互いに自分一人の体ではなくなったというわけだ!」

ははは、と笑う友人に、渋い表情を見せるマスター。 

訳知り顔の友人の態度には不満を残しつつ、明らかに喜びの表情を浮かべる私に、文句を言うことを諦めたのだろう。

「ーー愛してるよ、私の晶。
プレイパートナーとしてだけではなく、一生の伴侶になってくれて有難う」

再び抱きしめられ、うっとりと熱いキスを受ければ、いつの間にか話はあっさり纏まっていた。

流石はマスターの友人だ。
きっと普段から敏腕弁護士の名を欲しいままにしている事だろう。

そしてまた、優しい人でもある。

勿論、domである以上、ただ優しいだけの人であることなどありえないが……。

少なくとも、私とマスターを引き裂くような真似は決してすまい。
ならば、私にとって彼は善人、それでいい。

「ところで雄吾、君は自分の子猫ちゃんに名前を呼ばせないのかい?それともそういうプレイがお好みなのかな?他人行儀はいけないよ?」
「人前ではマスターと呼ぶように教えただけだ」
「なるほどなるほど!名前を呼ぶのは二人きりのベッドでということだね」

語尾にハートマークでも付きそうな調子で語られ、思わずマスターの胸元に顔を隠す。
心の中ではいつもマスター私の主と呼んでいるので、実は今でも名前を口に出すのは少し緊張するのだ。

「そんなくだらない質問ではなく、他にいくらでも聞くべきことがあるんじゃないか?」
「そりゃ勿論!書いてもらう書類も沢山あるけど、まずはこれかな?僕への委任状」

甲は、この件に関しての全ての書類作成や手続きの代行を乙に委ねるものとする、と簡単に言えばそんな感じのことが書かれた書類が何枚も踊り、見ているだけで目まぐるしい。

「あ、一枚で済まないんだと思ったろ?そうなんだよ、お役所仕事は何もかも杓子定規で本当に面倒くさくていけないが、ある意味それが最後の砦でもあるわけだからね」

含むところはあるが、悪用を警戒し、わざと煩雑な手続きにしているという面もあるのだろう。
言われてみれば確かにその通りだ。 
何もかも簡単にしてしまえば良いというものではない。

私としては、彼にならば白紙の委任状を託すことにも嫌はないのだが。

「……ふふ。
雄吾の子猫ちゃんは本当にいい子だねぇ。
悪いdomに、攫われないように、よ~っく注意しないと」
「わかっている」
「友人だからこそ警告しておくけれどね?もし、子猫ちゃんが誘拐されでもしたら、あの子はもう二度と、君のもとへは帰って来ないよ?勿論僕はすぐに探す。探して助け出してーーーー」

あぁ。
この視線。
やっぱり、彼もーーー。


「僕のものにしちゃうから」

傲慢で優秀な、dom人でなしだ。
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