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「まずは戸籍の確認だな!ひとっ走り行って謄本を取ってこよう。
さすがに今日の今日で全ての手続きを終えるのは難しいが、折角だから今夜は二人の婚約祝いということで、店でパーっとお披露目と行こうじゃないか!」
「この子を披露するのは御免だが」
「何も問題ない!みな、お前の脂下がった顔を見たがっているだけだからな!子猫ちゃんはカウンターの下にでも隠しておきたまえ!紹介する人間はこっちで厳選しておく!」
果たしてそれでお披露目といえるのだろうか。
疑問には思いつつ、それでいいなら楽しそうだな、と晶は思う。
この東野という弁護士を見ているだけでも随分変わっていると思うし、雄吾の友人達が一斉に勢揃いした姿はきっと壮観だろう。
カウンターの下からこっそり顔を出すくらいは、許してもらえるといいのだが。
「ほら、子猫は好奇心旺盛なんだぞ!自分にとって安全なテリトリーを教えるためにも、一度披露しておいた方がいい。お前の大事な子猫ちゃんに手をだすような馬鹿は少なくとも仲間にはいないしな!」
「表向きは、だろう?」
「守り切れないなら僕が貰っちゃおうかな?という話だけだ!」
「その時はお前を殺してでも取り戻すだけだが」
「友情とはかくも儚いものなのか」
「私とお前にあるのは歪んだ同族意識と憐みだと思うがな」
「それも長く続けば友情だよ、一応はね」
物騒な話を交えつつ、楽しそうに二人は話を続けていく。
なんだか、安心したら眠くなってしまった。
マスターのもとに来てから、自分は本当に猫のような生活になってしまったな、と晶は思う。
「馴染みのメンバーには連絡を回しておく!急な話だから集まれる人数も限られるだろうし、いつも通り手配はこっちで頼んでおくよ!支払いはご祝儀代わりだ!」
「おい、勝手に決めるんじゃない」
「みな、祝い事に飢えているんだ。いいじゃないか!幸せはみんなで分かち合ってこそ、だよ!」
「からかいたいだけだろう」
「こんな機会は滅多にないからね」
ははは、と笑って「じゃあ、詳し話は後でまた連絡するよ!」と、雄吾ではなく、なぜか晶に向けてウィンク。
騒がしいというか、愛嬌があるというか、なんというか。
随分ににぎやかな人だなと思いながらなんとなく片手をバイバイと振った晶に、「可愛い!」となぜか一人で身もだえる東野。
さっさと部屋を出てしまった後に残るのは、眠い目をこすりつつ、でもまだ気になることがたくさんな晶と、ひたすら晶の頭をなでなでしながら「面倒だな」と呟く雄吾。
「マスター、店の手配?というのは」
「もう二人きりだ、雄吾でいいよ」
「雄吾、さん」
「そう。『GoodBoy』」
ぎゅっと抱きしめられ、自然に耳元で囁く形になりながらも、気になることを尋ねる。
「雄吾さん、あの…」
「手配というのは、文字通り全ての用意をしてくれる業者を手配しておくということ。いわゆるパーティー代行業という奴だな」
「パーティー……代行?」
「うちはもともと昔からの友人達のたまり場でね。仲間内でなにかあればいつもこうして、店を貸切でバカ騒ぎをしたがるんだ。
でもうちには私と、バイトで入ってくれる学生の結城君しかいないからね。
パーティーの手配なんてとんでもないし、片付けなんて面倒でしかない。
勿論集まる彼らだって暇ではないから、自分たちで用意なんてできない。
となれば、後は専門の業者にすべてを委託するのが自然だろ?
私が出せるのは、いつも通りの簡単なフードと飲み物位だね」
大体は言い出しっぺが手配の連絡をすることになっているという話に、なるほど合理的だなと思う晶。
それにしても、自分の店なのに手配を全て人任せにしてしまうというのも変わっている。
普通の飲食業でも珍しいが、『会員制のバー』という特殊な空間でのその大らかな対応。
その業者の事を信頼している、ということなのかもしれないが…。
「その…業者の方も、もしかして……」
「この店の常連で、domとSubの同性カップルだ」
「!」
「私たちの先輩だな」
「そう……ですね」
なるほどと思いつつ、もはやそこを否定はすまいと、こくりうなづく晶。
「まぁ、あちらは元々同級生の友人同士だそうだから、私達とは違う関係性だがね。
見ていると、熟年夫婦のようで面白いよ。痴話喧嘩なんかも平気でするしね」
「domとSubなのに、ですか?」
「バース性は、彼ら二人の関係においてさほど重要なことではないんだろう。
そんなものなくとも、あの二人はきっと互いを伴侶に選んだだろうしね」
「いろんな人がいるですね…」
いかに自分が狭い世界で生きてきたのかを思い知らされる気分だ。
少なくともこれまでの人生で、「同性カップル」「プレイパートナー」などという言葉を耳にする機会はなく。
思えば、マスターの店のような、会員制のバー、なんてものに足を踏み入れたことも一度もなかった。
こじゃれたバーならば彼女を連れて行ったこともあったが、場違いな空気にしり込みしただけで、楽しいと思ったことは一度もない。
そういえば、と晶は思う。
「雄吾さんは……私の過去について」
「何も聞かないし、知ったところで何も変えないよ。
あぁ、勿論晶が私の事を知りたいというのなら、いくらでも教えてあげるけれど」
「私が、どんな人間でも、ですか?」
「人間だった過去の君は私のものではないけれど、猫になった君は、これからずっと私の傍にいてくれるんだろう?」
「はい」
それだらば、ためらいなくこたえられると安堵する晶。
「ならばそれでいい。
もう私以上に、君の体についてよく知る人間はいないだろう?」
「はい……」
ここ数日で、自分自身ですら知らなかった感情や快感を、お腹いっぱい沢山詰め込まれた。
頭の先からつま先まで、それこそ雄吾が触れていない場所など一つもない。
「これから先を私と一緒に過ごして、私の作る料理を食べて生きる君は、いずれその細胞の一つまでも私のものになる」
体の中のほとんどの細胞が、ある一定のサイクルで生まれ変わることは周知の事実だが、それを雄吾の言葉で語られると、こうもロマンチックな話になるものか。
「これから先、もっともっと甘やかしてあげるから、私なしでは息もできなくなるほどになろうね?」
「もうなってます」
「これからはもっと沢山愛してあるよ、私の伴侶さん」
「はい…」
『指輪と首輪、両方選ばなきゃね?これから先の君の全ても』と笑う雄吾に、ただただ、幸せだなと晶は頬を細めた。
さすがに今日の今日で全ての手続きを終えるのは難しいが、折角だから今夜は二人の婚約祝いということで、店でパーっとお披露目と行こうじゃないか!」
「この子を披露するのは御免だが」
「何も問題ない!みな、お前の脂下がった顔を見たがっているだけだからな!子猫ちゃんはカウンターの下にでも隠しておきたまえ!紹介する人間はこっちで厳選しておく!」
果たしてそれでお披露目といえるのだろうか。
疑問には思いつつ、それでいいなら楽しそうだな、と晶は思う。
この東野という弁護士を見ているだけでも随分変わっていると思うし、雄吾の友人達が一斉に勢揃いした姿はきっと壮観だろう。
カウンターの下からこっそり顔を出すくらいは、許してもらえるといいのだが。
「ほら、子猫は好奇心旺盛なんだぞ!自分にとって安全なテリトリーを教えるためにも、一度披露しておいた方がいい。お前の大事な子猫ちゃんに手をだすような馬鹿は少なくとも仲間にはいないしな!」
「表向きは、だろう?」
「守り切れないなら僕が貰っちゃおうかな?という話だけだ!」
「その時はお前を殺してでも取り戻すだけだが」
「友情とはかくも儚いものなのか」
「私とお前にあるのは歪んだ同族意識と憐みだと思うがな」
「それも長く続けば友情だよ、一応はね」
物騒な話を交えつつ、楽しそうに二人は話を続けていく。
なんだか、安心したら眠くなってしまった。
マスターのもとに来てから、自分は本当に猫のような生活になってしまったな、と晶は思う。
「馴染みのメンバーには連絡を回しておく!急な話だから集まれる人数も限られるだろうし、いつも通り手配はこっちで頼んでおくよ!支払いはご祝儀代わりだ!」
「おい、勝手に決めるんじゃない」
「みな、祝い事に飢えているんだ。いいじゃないか!幸せはみんなで分かち合ってこそ、だよ!」
「からかいたいだけだろう」
「こんな機会は滅多にないからね」
ははは、と笑って「じゃあ、詳し話は後でまた連絡するよ!」と、雄吾ではなく、なぜか晶に向けてウィンク。
騒がしいというか、愛嬌があるというか、なんというか。
随分ににぎやかな人だなと思いながらなんとなく片手をバイバイと振った晶に、「可愛い!」となぜか一人で身もだえる東野。
さっさと部屋を出てしまった後に残るのは、眠い目をこすりつつ、でもまだ気になることがたくさんな晶と、ひたすら晶の頭をなでなでしながら「面倒だな」と呟く雄吾。
「マスター、店の手配?というのは」
「もう二人きりだ、雄吾でいいよ」
「雄吾、さん」
「そう。『GoodBoy』」
ぎゅっと抱きしめられ、自然に耳元で囁く形になりながらも、気になることを尋ねる。
「雄吾さん、あの…」
「手配というのは、文字通り全ての用意をしてくれる業者を手配しておくということ。いわゆるパーティー代行業という奴だな」
「パーティー……代行?」
「うちはもともと昔からの友人達のたまり場でね。仲間内でなにかあればいつもこうして、店を貸切でバカ騒ぎをしたがるんだ。
でもうちには私と、バイトで入ってくれる学生の結城君しかいないからね。
パーティーの手配なんてとんでもないし、片付けなんて面倒でしかない。
勿論集まる彼らだって暇ではないから、自分たちで用意なんてできない。
となれば、後は専門の業者にすべてを委託するのが自然だろ?
私が出せるのは、いつも通りの簡単なフードと飲み物位だね」
大体は言い出しっぺが手配の連絡をすることになっているという話に、なるほど合理的だなと思う晶。
それにしても、自分の店なのに手配を全て人任せにしてしまうというのも変わっている。
普通の飲食業でも珍しいが、『会員制のバー』という特殊な空間でのその大らかな対応。
その業者の事を信頼している、ということなのかもしれないが…。
「その…業者の方も、もしかして……」
「この店の常連で、domとSubの同性カップルだ」
「!」
「私たちの先輩だな」
「そう……ですね」
なるほどと思いつつ、もはやそこを否定はすまいと、こくりうなづく晶。
「まぁ、あちらは元々同級生の友人同士だそうだから、私達とは違う関係性だがね。
見ていると、熟年夫婦のようで面白いよ。痴話喧嘩なんかも平気でするしね」
「domとSubなのに、ですか?」
「バース性は、彼ら二人の関係においてさほど重要なことではないんだろう。
そんなものなくとも、あの二人はきっと互いを伴侶に選んだだろうしね」
「いろんな人がいるですね…」
いかに自分が狭い世界で生きてきたのかを思い知らされる気分だ。
少なくともこれまでの人生で、「同性カップル」「プレイパートナー」などという言葉を耳にする機会はなく。
思えば、マスターの店のような、会員制のバー、なんてものに足を踏み入れたことも一度もなかった。
こじゃれたバーならば彼女を連れて行ったこともあったが、場違いな空気にしり込みしただけで、楽しいと思ったことは一度もない。
そういえば、と晶は思う。
「雄吾さんは……私の過去について」
「何も聞かないし、知ったところで何も変えないよ。
あぁ、勿論晶が私の事を知りたいというのなら、いくらでも教えてあげるけれど」
「私が、どんな人間でも、ですか?」
「人間だった過去の君は私のものではないけれど、猫になった君は、これからずっと私の傍にいてくれるんだろう?」
「はい」
それだらば、ためらいなくこたえられると安堵する晶。
「ならばそれでいい。
もう私以上に、君の体についてよく知る人間はいないだろう?」
「はい……」
ここ数日で、自分自身ですら知らなかった感情や快感を、お腹いっぱい沢山詰め込まれた。
頭の先からつま先まで、それこそ雄吾が触れていない場所など一つもない。
「これから先を私と一緒に過ごして、私の作る料理を食べて生きる君は、いずれその細胞の一つまでも私のものになる」
体の中のほとんどの細胞が、ある一定のサイクルで生まれ変わることは周知の事実だが、それを雄吾の言葉で語られると、こうもロマンチックな話になるものか。
「これから先、もっともっと甘やかしてあげるから、私なしでは息もできなくなるほどになろうね?」
「もうなってます」
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