保護猫subは愛されたい

あうる

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「じゃ、みんな適当にグラス持って~。我らがマスターの新しい人生に乾~杯!」
「「「「乾杯!!」」」」

男女入り混じりつつ、不思議な一体感を持った彼らは、皆この店の常連であり、バース性を持つ人々である。
全員が座って飲むには人数が多すぎるということで、今回は立食形式。
食べ物も飲みものもみな、セルフサービスということで落ち着いたらしい。
皆それぞれ場所を確保し、始まりの挨拶の前から既に各自談笑を楽しんでいるようだ。
堅苦しい席というわけではなし、友人同士の集まりならこれでも十分フォーマルな方だろう。

「いやぁ、流石は雄吾、随分揃ったねぇ!
みんな自分の用事そっちのけで集まってくれたから、なんだかんだでほとんどいつものメンバーじゃないか!」

片手に料理をつまみつつ、バンバンとマスターの背中を叩くのは、今回の集まりの主催者である東野旭。

「持つべきものは友だとは思わないかね?うん?」

ニヤリと笑う旭を、カウンターに座るマスターが冷たく一瞥する。
勿論そこにはなんの返しもない。

「接客業にあるまじき態度だが、今日は広い心で許そうじゃないか!なぁ諸君もそう思うだろ!」

誰彼構わず語りかけたその声に答えるのは、やはり誰とも分からぬ有象無象。

「東野さんマジうざ」
「マスターにようやくお相手が見つかったそうで。心からのお祝いと、お相手の方へのお悔やみ申し上げます」
「マスターのお相手とか俺死んでも無理」
「むしろお前がマスターに相手にされてないからそれこそ死んでも無理だろ」
「いやんマスター、噂の子猫ちゃんどこに隠してるのよ~早く紹介して頂戴!いじめないからぁ!」

どう見ても普通の大学生にしか見えない青年の二人組から、ホスト風の優男、真っ赤に爪を染めた女王様に、見るからに水商売風の女性。
皆常連だけあって互いに面識はあるのか、それぞれ遠慮ない会話を楽しんでいる様子で、パッと見ているだけでは、誰がdomで、誰がSubなのかはっきりわからない。
ただ、中には明らかにそれとわかる風体ーーつまり、首輪をつけたsabの姿も見受けられ、店の中はなかなかにカオスな状態だ。

「マスター、結の席ここに作ってやっていい?」

そう問いかけたのは大学生風の青年の片割れだ。彼らは首輪こそ身につけてはいないが、お互いに少しだけデザインの異なる対のピアスを身に着けており、まるで雑誌のモデルがなにかのように、とても良く似合っていた。

結、と呼ばれた青年は「零、別に今はいいよ!」と引き止めているようだが、マスターは鷹揚に「それぞれ一番楽なようにしてもらって構わないよ。最も私の許可なんてなくても、君たちは好きにするだろうが」と苦笑する。

「好きなようにしていいって!」

許可出たよ!との声が上がったのは全くの別口。
一気に盛り上がりを見せる店内では、既に立派なアスリート体型の男性が、店の中でも一際目を引く女王様を正面で抱き上げ、うっとりと口づけしていた。
まるで映画のワンシーンのような光景は現実味が薄いが、チラリ、とこちら向いて婀娜っぽく微笑み、己の男の首元にその細腕を回した女性な瞳は、紛うことなき支配domのもので。

なるほど、こうして自身のsubを堂々と見せつけることを好むdomなのかと納得する。

初めからフランクな雰囲気であった集まりは、そこから更にバース性独特な色をおび、一見するといかがわしい風俗店かと見紛うような有様へと変貌していく。
青年ーー結も、主人であろう相方の足元にぺたんと座り込み、用意された食事を主人からの口移しで与えられている。
淫靡とも見える光景だが、何しろこの場にいるのは皆同じ穴の狢。

「初々しいわね~」とは、逞しい腕の中から、残された片腕で当然のように給餌を受ける女王様からのお言葉で、彼等からすればこの程度、ただの微笑ましい光景のようだ。


改めてすごい世界だな、と。

そう晶がこっそり、息を吐いた直後。


「見ーっけ!!マスターっつてば、やっぱり足元に隠してた!!」
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