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カウンターの下から出ていくことに躊躇いはなかった。
呼びかけたのが、マスターだったから。
「マスター」
「隣においで」
差し伸べられた手を取り、マスターの横に立つ。
なにか言葉を発するべきかと躊躇うその唇をマスターがそっと塞ぎ、艶やかに笑った。
「これが私の可愛い猫だよ」
「ちょ……!!」
ザワザワとした、店内のざわめきも気にならない。
なぜなら。
「マスター!?そこまでする!?」
「あ、今度は耳塞ごうとしてるし!!」
「ちょ、瞳も見せてよー!!」
目の前には、マスターの指先だけ。
触れるのは、マスターの体温だけ。
いたずらに触れる指先が、少しだけくすぐったい。
「うわ……」
「あらまぁ……」
あちらこちらから聞こえる感嘆。
「いいなぁ」とボソリ呟く声。
瞳は隠しても、口を塞がれなかったということは、だ。
何を口にすればいいか、視界すら塞がれた中で一頻り悩んで、結局口をついて出たのは、たった一言。
「マスターの猫、です」
「「「!!」」」
「自己紹介できて偉いね、上手だよ」
「はい」
ヨシヨシと頭を撫でられ、ぱっと視界がクリアになった。
どうやら、ようやくマスターのお許しが出たらしい。
広がった視界の先には、画面上で見ているよりも遥かに圧を感じるような客人達の姿。
皆、晶に声をかけたくてウズウズしているのが丸分かりの様子だ。
「……マスター?」
「ここの子達なら、いいよ」
好きにお話してごらん、と耳元に囁くマスター。
「但し、この店の中だけならね」と付け加えられた言葉は、束縛と言うには妙にくすぐったい。
しかし何を言えばいいのか、今度こそ本気で困ってしまった。
名前……を名乗るのも今更か。
そもそも猫は名乗らない。
ならば猫らしい振る舞いとはどうすればいいのか。
よく分からなかったのでとりあえず、精一杯猫らしく「ニャァ」と鳴いてみる事にした。
「……は?え?」
「……よろしく、だってさ」
くすくす笑いながらのマスターの解説は、9割型正しい。
「人語話せなくなるレベルに調教済み……?」
「結局会話させる気ないってオチか」
呆れ半分、感心半分。
「ま、とりあえず顔は見れたわけだし、お披露目はこれでいっか。皆もう一回乾杯しよ~!改めて猫さんの歓迎会!猫さんは何飲む?」
「いや、この子の分はいいよ」
「え、まさか未成年じゃないよね?」
「立派な成人」
「よかった、犯罪じゃなくて!本当に良かった!」
理屈ではなく、肌で感じる仲間意識。
今までの晶にはなかった感覚だ。
この場所が、マスターの作り出した彼らの為の縄張り。
そう考えると何故か自分まで誇らしく観じてしまい、薄く微笑む晶。
「……ここで、皆に飼われる猫になるかい?」
「いいえ!私はマスターの猫です」
飼われるのなら、マスターがいい。
即答し、何故そんなことを?と咄嗟に目の前にあったマスターの腕を縋る様に掴む。
「マスター、」
「大丈夫、そんなに不安そうな顔をしないで。……意地悪を言ってごめんね?」
「意地悪……ですか?」
何のことだかさっぱりわからない。
眼の前でかすかに揺れる晶の頭を、耐えきれないとばかりに引き寄せ、ぎゅとその胸に抱え込むマスター。
「……無自覚すぎるのも少し問題か。
早くいつもの部屋に帰りたくなったよ」
返事をするかわり、自分もだと伝えるように、背中を掴む手に力を込める晶。
にぎやかな場所も悪くはないが、一番好きなのはマスターの腕の中。
二人きりになれる場所。
「君は、私を甘やかす達人だね」
呼びかけたのが、マスターだったから。
「マスター」
「隣においで」
差し伸べられた手を取り、マスターの横に立つ。
なにか言葉を発するべきかと躊躇うその唇をマスターがそっと塞ぎ、艶やかに笑った。
「これが私の可愛い猫だよ」
「ちょ……!!」
ザワザワとした、店内のざわめきも気にならない。
なぜなら。
「マスター!?そこまでする!?」
「あ、今度は耳塞ごうとしてるし!!」
「ちょ、瞳も見せてよー!!」
目の前には、マスターの指先だけ。
触れるのは、マスターの体温だけ。
いたずらに触れる指先が、少しだけくすぐったい。
「うわ……」
「あらまぁ……」
あちらこちらから聞こえる感嘆。
「いいなぁ」とボソリ呟く声。
瞳は隠しても、口を塞がれなかったということは、だ。
何を口にすればいいか、視界すら塞がれた中で一頻り悩んで、結局口をついて出たのは、たった一言。
「マスターの猫、です」
「「「!!」」」
「自己紹介できて偉いね、上手だよ」
「はい」
ヨシヨシと頭を撫でられ、ぱっと視界がクリアになった。
どうやら、ようやくマスターのお許しが出たらしい。
広がった視界の先には、画面上で見ているよりも遥かに圧を感じるような客人達の姿。
皆、晶に声をかけたくてウズウズしているのが丸分かりの様子だ。
「……マスター?」
「ここの子達なら、いいよ」
好きにお話してごらん、と耳元に囁くマスター。
「但し、この店の中だけならね」と付け加えられた言葉は、束縛と言うには妙にくすぐったい。
しかし何を言えばいいのか、今度こそ本気で困ってしまった。
名前……を名乗るのも今更か。
そもそも猫は名乗らない。
ならば猫らしい振る舞いとはどうすればいいのか。
よく分からなかったのでとりあえず、精一杯猫らしく「ニャァ」と鳴いてみる事にした。
「……は?え?」
「……よろしく、だってさ」
くすくす笑いながらのマスターの解説は、9割型正しい。
「人語話せなくなるレベルに調教済み……?」
「結局会話させる気ないってオチか」
呆れ半分、感心半分。
「ま、とりあえず顔は見れたわけだし、お披露目はこれでいっか。皆もう一回乾杯しよ~!改めて猫さんの歓迎会!猫さんは何飲む?」
「いや、この子の分はいいよ」
「え、まさか未成年じゃないよね?」
「立派な成人」
「よかった、犯罪じゃなくて!本当に良かった!」
理屈ではなく、肌で感じる仲間意識。
今までの晶にはなかった感覚だ。
この場所が、マスターの作り出した彼らの為の縄張り。
そう考えると何故か自分まで誇らしく観じてしまい、薄く微笑む晶。
「……ここで、皆に飼われる猫になるかい?」
「いいえ!私はマスターの猫です」
飼われるのなら、マスターがいい。
即答し、何故そんなことを?と咄嗟に目の前にあったマスターの腕を縋る様に掴む。
「マスター、」
「大丈夫、そんなに不安そうな顔をしないで。……意地悪を言ってごめんね?」
「意地悪……ですか?」
何のことだかさっぱりわからない。
眼の前でかすかに揺れる晶の頭を、耐えきれないとばかりに引き寄せ、ぎゅとその胸に抱え込むマスター。
「……無自覚すぎるのも少し問題か。
早くいつもの部屋に帰りたくなったよ」
返事をするかわり、自分もだと伝えるように、背中を掴む手に力を込める晶。
にぎやかな場所も悪くはないが、一番好きなのはマスターの腕の中。
二人きりになれる場所。
「君は、私を甘やかす達人だね」
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