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二人での生活も、随分と慣れた歳の瀬。
「なんつーか、そういう姿を見ると、野崎さんってまじで逆年齢詐称だよね」
「こら、失礼なこと言っちゃだめだよ、零」
カウンターでマスターからカクテルの作り方を教わる晶は、美しいグラデーションの出来たグラスを前に顔をほころばせたまま、「そうですか?」と無自覚に首を傾げた。
最近始まったフードメニューを運ぶ結は、カウンターに張り付いて晶にちょっかいをかける零を嗜めつつ、やはり同じ事を思っていたらしく、「まぁ、確かに僕たちとあんなに歳が離れているとは思わなかったけど」と、カクテルに夢中な晶にちらりと視線を向けた。
「でも童顔って言うわけでもないし、なんだろ?雰囲気?」
「俺に聞かれてもわかんないよ、そんなの。もしかして昔からそんな感じだったんですか?野崎さん」
だとしたら高校時代とかめっちゃモテただろうな~と盛り上がる二人に、今だカクテルを見つめたまま「忘れました、昔のことは」と短く答える晶。
興味のあること以外にはそっぽを向くその態度は、まさしく猫そのものだ。
接客業としてはあるまじき態度だが、晶はそもそも従業員ではなく、マスターの猫なのだから何も問題はない。
「う~ん。むしろ野崎さんがエリートリーマンだったってのが信じらんない」
「エリートの定義が不明ですが、私は違ったと思いますよ」
何しろあっさりクビを切られたくらいだ。
今はそんなことに興味はないと言わんばかりに、作ったカクテルを横に置いて、新たなカクテルの作成に取り掛かる。
そんな晶が作りだした、素人が作ったとは思えない秋の夕焼け色のカクテルを目当てに、わらわらと群がる人々。
「猫ちゃんの気まぐれカクテルめっちゃ美味そう!マスター、これ俺が貰うから!」
「構いませんが、時価ですよ」
「時価(笑)」
「プレミア価格ってことじゃない?次できたやつ私ね!」
カウンター前の席を陣取っていた常連は、晶が次々と作り出す新しいカクテルに夢中だ。
プロであるマスターとは違い、晶が作るカクテルはあくまで試作品。
しいて言うならお遊びの産物なので、勿論時価というのはマスターの冗談なのだが、カクテルを飲んだ客の一人は「うまっ猫ちゃんこれで食ってけるよ!」と大満足で絶賛している。
「マスターがカクテル作ってるの見て独学で勉強したんだろ?もうマジ猫ちゃん可愛すぎ」
「私はマスターが猫ちゃんをお店に出した時は驚いたけど」
「それな。でもあんだけ露骨に牽制されたら手を出そうって馬鹿いる?」
「そのリボン、本当によく似合ってるわ~。さすが滋賀君、センスだけは抜群」
「本人変わり者だけどな」
皆が注目しているのは晶の首に巻かれた真っ赤なチョーカー。
歓迎会と称されたあの日のしばらく後、迷惑をかけたお詫びだとして滋賀から贈られてきたのは、およそ5~6メートルはあろう、長い長い真っ赤なリボンの束だった。
鈴を模したペンダントトップが共につけられており、チョーカーのようにして首に巻けば、まさに猫の首輪。
それを丁度いい長さにカットせず、首の後ろに片方だけだらりと長く垂らす。
リードのようになったリボンのその端が、マスター手首にぐるりと巻かれていることは、常連達にとって、周知の事実。
晶にとって許される行動範囲は、マスターの側から僅か数メートル範囲。
それでも、リボンは常に背後に垂らされた状態で、ぴんと張られることは滅多にない。
それは、カウンターの下だけでなく、店に顔を出すようになってからも、二人の距離感が何一つ変わらない証明だった。
「マスターの心の狭さ半端ない」
「執着心の塊」
「独占欲の権化」
ひそひそと話す常連達だが、皆どこかほほえましそうな表情なのは最早お約束だ。
晶を店に置くようになってからほとんどカウンターからでなくなったマスターに代わり、フードやドリンクを席へ運ぶのは零と結の二人。
気心の知れた常連ばかりということもあり、アルバイトとして雇われた二人は学生の身ながらよく働いてくれている。
「金も溜まるし目の保養にもなるし、最高の職場だよな」
「おかげで年末恒例の温泉旅行も、いつもよりちょっとリッチな場所が予約できたしね」
「露天風呂付きの離れとか、今から超テンション上がるよな!」
「マスター達は旅行とかいかないんですか?いいですよ、温泉」
「そうだね、今年は長めの休みをもらう予定だし、考えておこうかな」
どうする?と、横にいる晶の喉元をくすぐるマスター。
「マスターと一緒でしたらどこにでも」
「ふふ。カクテル作りは随分気に入ったようだね?」
「マスターの真似をしているだけなので」
少しでもマスターの事が知りたくて、と可愛いことをこぼす晶。
基本的に、晶が何かをしようとするとき、その行動原理の根本にはすべてマスターがいる。
縛り付けてそばに置くよりも、離れても必ず帰ってくると信じられる関係の方が、何倍も幸せなのは当然の事。
リボンあくまで、外に見せつけるためのフェイクに過ぎない。
本当に縛られているのは肉体ではなく「心」であることは、お互いだけが知っていればいい事。
「うちの猫ちゃんは本当に優秀な子だね」
「マスターの猫ですから」
そう言った晶が次に作り出したのは、空と海との境界を表したような真っ青なカクテル。
本当に、センスがいい。
「きらきらと輝く夜景のようなカクテルも作ってみたいです」
「そうだね、どうやって作ろうか」
可愛らしい提案に、コーラベースのカクテルに金粉でも入れるかと思案するマスター。
「マスターめっちゃ幸せそう……」
「そう、じゃなくて幸せなんだろ。あ~もう羨ましいっ。俺も帰ってすぐ相方んとこ行こ!」
「飲んでないでさっさと行けばいいじゃん」
「今日は残業なのっ!一人で家にいても寂しいから遊びに来たんだろ!?」
「さみしん坊のdomとか笑える」
「馬鹿言うなよ、domなんてみんな甘えん坊のさみしん坊の集まりだろうが!!」
「「「否定できない自分が悲しい」」」
晶達を中心とした和やかなムードが呼び水となったのか、それとも独り身が身に染みたのか。
既に安定した常連カップル同士はともかくとして、これまで特定の相手のいなかった常連連中の、カップル成功率が爆上がりしたのもまた、笑える事実だった。
「なんつーか、そういう姿を見ると、野崎さんってまじで逆年齢詐称だよね」
「こら、失礼なこと言っちゃだめだよ、零」
カウンターでマスターからカクテルの作り方を教わる晶は、美しいグラデーションの出来たグラスを前に顔をほころばせたまま、「そうですか?」と無自覚に首を傾げた。
最近始まったフードメニューを運ぶ結は、カウンターに張り付いて晶にちょっかいをかける零を嗜めつつ、やはり同じ事を思っていたらしく、「まぁ、確かに僕たちとあんなに歳が離れているとは思わなかったけど」と、カクテルに夢中な晶にちらりと視線を向けた。
「でも童顔って言うわけでもないし、なんだろ?雰囲気?」
「俺に聞かれてもわかんないよ、そんなの。もしかして昔からそんな感じだったんですか?野崎さん」
だとしたら高校時代とかめっちゃモテただろうな~と盛り上がる二人に、今だカクテルを見つめたまま「忘れました、昔のことは」と短く答える晶。
興味のあること以外にはそっぽを向くその態度は、まさしく猫そのものだ。
接客業としてはあるまじき態度だが、晶はそもそも従業員ではなく、マスターの猫なのだから何も問題はない。
「う~ん。むしろ野崎さんがエリートリーマンだったってのが信じらんない」
「エリートの定義が不明ですが、私は違ったと思いますよ」
何しろあっさりクビを切られたくらいだ。
今はそんなことに興味はないと言わんばかりに、作ったカクテルを横に置いて、新たなカクテルの作成に取り掛かる。
そんな晶が作りだした、素人が作ったとは思えない秋の夕焼け色のカクテルを目当てに、わらわらと群がる人々。
「猫ちゃんの気まぐれカクテルめっちゃ美味そう!マスター、これ俺が貰うから!」
「構いませんが、時価ですよ」
「時価(笑)」
「プレミア価格ってことじゃない?次できたやつ私ね!」
カウンター前の席を陣取っていた常連は、晶が次々と作り出す新しいカクテルに夢中だ。
プロであるマスターとは違い、晶が作るカクテルはあくまで試作品。
しいて言うならお遊びの産物なので、勿論時価というのはマスターの冗談なのだが、カクテルを飲んだ客の一人は「うまっ猫ちゃんこれで食ってけるよ!」と大満足で絶賛している。
「マスターがカクテル作ってるの見て独学で勉強したんだろ?もうマジ猫ちゃん可愛すぎ」
「私はマスターが猫ちゃんをお店に出した時は驚いたけど」
「それな。でもあんだけ露骨に牽制されたら手を出そうって馬鹿いる?」
「そのリボン、本当によく似合ってるわ~。さすが滋賀君、センスだけは抜群」
「本人変わり者だけどな」
皆が注目しているのは晶の首に巻かれた真っ赤なチョーカー。
歓迎会と称されたあの日のしばらく後、迷惑をかけたお詫びだとして滋賀から贈られてきたのは、およそ5~6メートルはあろう、長い長い真っ赤なリボンの束だった。
鈴を模したペンダントトップが共につけられており、チョーカーのようにして首に巻けば、まさに猫の首輪。
それを丁度いい長さにカットせず、首の後ろに片方だけだらりと長く垂らす。
リードのようになったリボンのその端が、マスター手首にぐるりと巻かれていることは、常連達にとって、周知の事実。
晶にとって許される行動範囲は、マスターの側から僅か数メートル範囲。
それでも、リボンは常に背後に垂らされた状態で、ぴんと張られることは滅多にない。
それは、カウンターの下だけでなく、店に顔を出すようになってからも、二人の距離感が何一つ変わらない証明だった。
「マスターの心の狭さ半端ない」
「執着心の塊」
「独占欲の権化」
ひそひそと話す常連達だが、皆どこかほほえましそうな表情なのは最早お約束だ。
晶を店に置くようになってからほとんどカウンターからでなくなったマスターに代わり、フードやドリンクを席へ運ぶのは零と結の二人。
気心の知れた常連ばかりということもあり、アルバイトとして雇われた二人は学生の身ながらよく働いてくれている。
「金も溜まるし目の保養にもなるし、最高の職場だよな」
「おかげで年末恒例の温泉旅行も、いつもよりちょっとリッチな場所が予約できたしね」
「露天風呂付きの離れとか、今から超テンション上がるよな!」
「マスター達は旅行とかいかないんですか?いいですよ、温泉」
「そうだね、今年は長めの休みをもらう予定だし、考えておこうかな」
どうする?と、横にいる晶の喉元をくすぐるマスター。
「マスターと一緒でしたらどこにでも」
「ふふ。カクテル作りは随分気に入ったようだね?」
「マスターの真似をしているだけなので」
少しでもマスターの事が知りたくて、と可愛いことをこぼす晶。
基本的に、晶が何かをしようとするとき、その行動原理の根本にはすべてマスターがいる。
縛り付けてそばに置くよりも、離れても必ず帰ってくると信じられる関係の方が、何倍も幸せなのは当然の事。
リボンあくまで、外に見せつけるためのフェイクに過ぎない。
本当に縛られているのは肉体ではなく「心」であることは、お互いだけが知っていればいい事。
「うちの猫ちゃんは本当に優秀な子だね」
「マスターの猫ですから」
そう言った晶が次に作り出したのは、空と海との境界を表したような真っ青なカクテル。
本当に、センスがいい。
「きらきらと輝く夜景のようなカクテルも作ってみたいです」
「そうだね、どうやって作ろうか」
可愛らしい提案に、コーラベースのカクテルに金粉でも入れるかと思案するマスター。
「マスターめっちゃ幸せそう……」
「そう、じゃなくて幸せなんだろ。あ~もう羨ましいっ。俺も帰ってすぐ相方んとこ行こ!」
「飲んでないでさっさと行けばいいじゃん」
「今日は残業なのっ!一人で家にいても寂しいから遊びに来たんだろ!?」
「さみしん坊のdomとか笑える」
「馬鹿言うなよ、domなんてみんな甘えん坊のさみしん坊の集まりだろうが!!」
「「「否定できない自分が悲しい」」」
晶達を中心とした和やかなムードが呼び水となったのか、それとも独り身が身に染みたのか。
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