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「晶は優しいから、どこまでも許してしまう。
だからこそ、試したくなるんだ。どこまでなら許してくれるのか、その奥の奥まで覗き込んでみたくて仕方なくなる」
それが、domとしての性だ。
「君はきっと、いくらでも試せばいいと言ってくくれるのだろうが、そうじゃないんだ。
そうだね―――――わかりやすく言えば、これはきっと、甘えたいだけなんだろうな」
子供が、母親の愛情を試そうと、あれこれ質の悪い悪戯をけしかける様に。
それは、自分が愛されているという、絶対の自信があってこその傲慢。
「その甘えが、君をいつか押しつぶしてしまうかもしれない」
晶の周囲の人間が、無意識の甘えで晶を押しつぶし、Subへと覚醒させてしまったように。
その時を狙った誰かに横からかすめ取られないなど、誰が言いきれるだろうか。
「マスターが恐れているのは彼ではなく、彼に付け入る隙を与えてしまいそうな自分、ということですか?」
「…さすが、的確に痛いところをついてくれるね」
「私の中は、こんなにもマスターでいっぱいなのに、それでも?」
「…不安なんだ、きっと一生ね」
それは今まで誰にも言うことのできなかった弱音。
支配することを性とするdomだからこそ、誰よりも愛されることを渇望する。
愛して愛して愛して愛して―――――――――愛されていることを、信じたい。
「そういえば、先ほどのお姉さんの言葉で、「父」と」
「……そうだね、その話も、いつか君に聞いてほしい」
「私も同じだけ、マスターに聞いてほしい話があります」
これだけ一緒にいるのに、分かり合えていることはほんのわずか。
勿論、他の誰よりも知り合っていることもあるし、誰よりも深い場所にお互いがいるのは分かっている。
それでも、不安を覚えるのが人間だ。
「マスターが不安になったのは、私がカウンターの外に出始めたからですか?」
「いや。それ以前からだ」
「では、曜日を決めましょう」
「……何?」
「人である私と猫である私、どちらも変わらずマスターのものであると証明できるまで、丸一日、人の言葉も忘れた完全な猫として過ごす日を作ったらどうかと」
飼い猫であれば、他の誰かの元へ行ってしまうのではないかと心配する必要など、どこにもない。
人の目に触れず、ずっとそばに。
それは、どちらにとっても魅力的な提案だろう。
「晶にとっては退屈じゃないかな?」
「全く。もともと猫として養ってもらいたいと言っていたのは私ですよ」
「ではなぜ、最近になって色々と勉強を始めたんだい?」
そうか、それも不安の原因だったのかと今更になって気づいた。
本当に、自分はまだまだマスターのSubとして不十分だと晶は自嘲する。
「勉強を始めたのは、ただの猫ではマスターが満足できないと思ったからです」
「私?」
「マスターが不安になれば、猫である私だって同じように不安になるんですよ」
「……私の無意識の焦りや不安が、君にも伝わっていたということか」
恐らくは、そのすれ違いがお互いの不安を色濃くさせてしまった。
「だから、お互いに相手の思う存分甘えられる日を作る、というのはどうでしょうか。
私は、マスターの為なら、人であることなんてどうだっていいんです」
「……私のような男に、本当に君は勿体ない」
「マスターだから、安心して全て差し出せるんです」
自分を傲慢だと蔑みながらも、傷一つつけぬよう、細心の注意で晶を守ろうとしてくれる優しい人。
「例外はありません。
確かに最初、Subになったばかりの頃は、誰でもいいから共にいてくれれば構わない、そう思っていました」
何もかもやる気にならず、自暴自棄になった。
誰からも必要とされていないのなら、ただ愛玩されるだけの猫として暮らしたいと、そう思った。
「でも、今思えばそれはきっと無理でしたね」
「……なぜ?君ならば、誰を主にしてもうまくやっていけたはずだ」
「――私が探していたのは、同じだけの思いで私を愛してくれる人。愛させてくれる人だったのだと思います。
猫のように、といったのは、自分でもよくわかっていたからでしょう。
私が本来、とても冷たい人間だということを」
「冷たい?晶が?」
だからこそ、試したくなるんだ。どこまでなら許してくれるのか、その奥の奥まで覗き込んでみたくて仕方なくなる」
それが、domとしての性だ。
「君はきっと、いくらでも試せばいいと言ってくくれるのだろうが、そうじゃないんだ。
そうだね―――――わかりやすく言えば、これはきっと、甘えたいだけなんだろうな」
子供が、母親の愛情を試そうと、あれこれ質の悪い悪戯をけしかける様に。
それは、自分が愛されているという、絶対の自信があってこその傲慢。
「その甘えが、君をいつか押しつぶしてしまうかもしれない」
晶の周囲の人間が、無意識の甘えで晶を押しつぶし、Subへと覚醒させてしまったように。
その時を狙った誰かに横からかすめ取られないなど、誰が言いきれるだろうか。
「マスターが恐れているのは彼ではなく、彼に付け入る隙を与えてしまいそうな自分、ということですか?」
「…さすが、的確に痛いところをついてくれるね」
「私の中は、こんなにもマスターでいっぱいなのに、それでも?」
「…不安なんだ、きっと一生ね」
それは今まで誰にも言うことのできなかった弱音。
支配することを性とするdomだからこそ、誰よりも愛されることを渇望する。
愛して愛して愛して愛して―――――――――愛されていることを、信じたい。
「そういえば、先ほどのお姉さんの言葉で、「父」と」
「……そうだね、その話も、いつか君に聞いてほしい」
「私も同じだけ、マスターに聞いてほしい話があります」
これだけ一緒にいるのに、分かり合えていることはほんのわずか。
勿論、他の誰よりも知り合っていることもあるし、誰よりも深い場所にお互いがいるのは分かっている。
それでも、不安を覚えるのが人間だ。
「マスターが不安になったのは、私がカウンターの外に出始めたからですか?」
「いや。それ以前からだ」
「では、曜日を決めましょう」
「……何?」
「人である私と猫である私、どちらも変わらずマスターのものであると証明できるまで、丸一日、人の言葉も忘れた完全な猫として過ごす日を作ったらどうかと」
飼い猫であれば、他の誰かの元へ行ってしまうのではないかと心配する必要など、どこにもない。
人の目に触れず、ずっとそばに。
それは、どちらにとっても魅力的な提案だろう。
「晶にとっては退屈じゃないかな?」
「全く。もともと猫として養ってもらいたいと言っていたのは私ですよ」
「ではなぜ、最近になって色々と勉強を始めたんだい?」
そうか、それも不安の原因だったのかと今更になって気づいた。
本当に、自分はまだまだマスターのSubとして不十分だと晶は自嘲する。
「勉強を始めたのは、ただの猫ではマスターが満足できないと思ったからです」
「私?」
「マスターが不安になれば、猫である私だって同じように不安になるんですよ」
「……私の無意識の焦りや不安が、君にも伝わっていたということか」
恐らくは、そのすれ違いがお互いの不安を色濃くさせてしまった。
「だから、お互いに相手の思う存分甘えられる日を作る、というのはどうでしょうか。
私は、マスターの為なら、人であることなんてどうだっていいんです」
「……私のような男に、本当に君は勿体ない」
「マスターだから、安心して全て差し出せるんです」
自分を傲慢だと蔑みながらも、傷一つつけぬよう、細心の注意で晶を守ろうとしてくれる優しい人。
「例外はありません。
確かに最初、Subになったばかりの頃は、誰でもいいから共にいてくれれば構わない、そう思っていました」
何もかもやる気にならず、自暴自棄になった。
誰からも必要とされていないのなら、ただ愛玩されるだけの猫として暮らしたいと、そう思った。
「でも、今思えばそれはきっと無理でしたね」
「……なぜ?君ならば、誰を主にしてもうまくやっていけたはずだ」
「――私が探していたのは、同じだけの思いで私を愛してくれる人。愛させてくれる人だったのだと思います。
猫のように、といったのは、自分でもよくわかっていたからでしょう。
私が本来、とても冷たい人間だということを」
「冷たい?晶が?」
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