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修道院での出会いから、
二人は何度か、同じ時刻にそこを訪れるようになった。
約束はしない。
それでも、どちらかが来れば、
もう一人も必ずそこにいる。
それが、いつしか当然になった。
⸻
市の午後
ある日、青年は言った。
「市が立つ。
ここから少し行けば、国境の検問もない」
少女は一瞬だけ迷い、頷いた。
市は賑やかだった。
布、香辛料、果実。
平和な色と匂いが溢れている。
少女は干し葡萄を手に取り、
少し驚いたように目を見開いた。
「甘い……」
その声に、青年は思わず笑いそうになる。
だが、声には出さない。
彼は金貨を差し出した。
「これも」
「いいえ」
少女は首を振る。
「自分の分は、自分で払います」
その言い方が、
どこか誇らしげで、哀しかった。
⸻
川辺の休息
市を抜け、川のほとりに腰を下ろす。
水は澄み、
空は高かった。
少女は靴を脱ぎ、
そっと水に足を入れる。
「冷たいですね」
「夏でも、ここは冷える」
青年は外套を外し、
彼女の肩にかけた。
「……ありがとう」
その言葉は小さかったが、
胸に残った。
風が吹く。
金髪が揺れ、
陽を含んで輝く。
青年は思う。
この光景を、
一生、忘れられないと。
⸻
ささやかな贈り物
市で買った小さな銀の鈴。
青年は無言で差し出す。
「これは?」
「修道院の鐘に似ていると思った」
少女は指先で鈴を鳴らす。
かすかな音。
「……きれい」
そう言って、
彼女は初めて、はっきりと笑った。
胸が締めつけられるほどの笑顔だった。
それが、
失われたものをすべて取り戻すかのように。
⸻
恋が、名を持つ前に
帰り道、
二人は並んで歩く。
触れそうで、触れない距離。
少女が言う。
「私……
ここに来ると、息ができます」
青年は立ち止まる。
「なら、ここにいればいい」
少女は首を振る。
「ずっとは、いられません」
理由は聞かなかった。
聞けば、この時間が壊れる気がしたから。
夕暮れ。
修道院の鐘が鳴る。
青年は思う。
――この人を失うなら、
世界は、また戦場になる。
彼女も同じことを思っていた。
だが、その想いに
名前をつける勇気は、
まだ二人にはなかった。
二人は何度か、同じ時刻にそこを訪れるようになった。
約束はしない。
それでも、どちらかが来れば、
もう一人も必ずそこにいる。
それが、いつしか当然になった。
⸻
市の午後
ある日、青年は言った。
「市が立つ。
ここから少し行けば、国境の検問もない」
少女は一瞬だけ迷い、頷いた。
市は賑やかだった。
布、香辛料、果実。
平和な色と匂いが溢れている。
少女は干し葡萄を手に取り、
少し驚いたように目を見開いた。
「甘い……」
その声に、青年は思わず笑いそうになる。
だが、声には出さない。
彼は金貨を差し出した。
「これも」
「いいえ」
少女は首を振る。
「自分の分は、自分で払います」
その言い方が、
どこか誇らしげで、哀しかった。
⸻
川辺の休息
市を抜け、川のほとりに腰を下ろす。
水は澄み、
空は高かった。
少女は靴を脱ぎ、
そっと水に足を入れる。
「冷たいですね」
「夏でも、ここは冷える」
青年は外套を外し、
彼女の肩にかけた。
「……ありがとう」
その言葉は小さかったが、
胸に残った。
風が吹く。
金髪が揺れ、
陽を含んで輝く。
青年は思う。
この光景を、
一生、忘れられないと。
⸻
ささやかな贈り物
市で買った小さな銀の鈴。
青年は無言で差し出す。
「これは?」
「修道院の鐘に似ていると思った」
少女は指先で鈴を鳴らす。
かすかな音。
「……きれい」
そう言って、
彼女は初めて、はっきりと笑った。
胸が締めつけられるほどの笑顔だった。
それが、
失われたものをすべて取り戻すかのように。
⸻
恋が、名を持つ前に
帰り道、
二人は並んで歩く。
触れそうで、触れない距離。
少女が言う。
「私……
ここに来ると、息ができます」
青年は立ち止まる。
「なら、ここにいればいい」
少女は首を振る。
「ずっとは、いられません」
理由は聞かなかった。
聞けば、この時間が壊れる気がしたから。
夕暮れ。
修道院の鐘が鳴る。
青年は思う。
――この人を失うなら、
世界は、また戦場になる。
彼女も同じことを思っていた。
だが、その想いに
名前をつける勇気は、
まだ二人にはなかった。
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