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結婚式は、修道院で行われた。
かつて、
名も持たぬ二人が出会い、
恋を知り、
引き裂かれた場所。
豪奢な装飾はない。
参列者も少ない。
必要なのは、
ここで選ばれたという事実だけだった。
石の床。
白い光。
鐘楼の影。
それで十分だった。
⸻
誓い
青年と少女――
もう若者と呼ぶには、
少しだけ強くなった二人が並ぶ。
誓いの言葉は短い。
神の名より先に、
互いの名を呼ぶ。
それだけで、
過去に封じられていたすべてが、
静かに解かれていく。
指輪は、
特別な宝石ではない。
銀の輪。
修道院の鐘と、
同じ音色を持つ金属。
かつて、
鳴らされなかった鈴の代わりに。
⸻
母カテリーナ
式の後、
中庭の端に、
母カテリーナは立っていた。
金髪は、
もう若き日の輝きを失っている。
それでも、
儚い美しさは消えていない。
彼女は笑わない。
だが――
娘の姿を見た瞬間、
わずかに息を呑む。
それは、
誰にも見せなかった反応。
娘が、
自分で選んだ人の隣に立ち、
恐れずに前を向いている。
その光景が、
彼女の中の何かを、
確かに揺らした。
カルロが、
静かに彼女の隣に立つ。
二人は、言葉を交わさない。
代わりに、
同じ鐘の音を聞く。
⸻
初めての“感情”
鐘が鳴り終わる。
その瞬間、
カテリーナは、
ほんのわずかに――
目を伏せた。
涙ではない。
嗚咽でもない。
だが、
確かに感情だった。
「……よかった」
それは、
長い年月の末に、
ようやく口にできた言葉。
誰のためでもなく、
国のためでもなく。
ただ、
目の前の“未来”のための言葉。
カルロは、
何も言わない。
言えば、
過去が戻ってしまう気がした。
⸻
終わりに
かつて、
彼女は笑わなかった。
それは、
弱さではない。
守るために、
選び続けた結果だった。
だが――
その選択は、
次の世代に、
笑う自由を残した。
最後の鐘が鳴る。
今度こそ、
誰かを縛る音ではない。
選ばなかった人生が、
無意味だったわけではない。
それは、
次に選ぶ者のための道だった。
かつて、
名も持たぬ二人が出会い、
恋を知り、
引き裂かれた場所。
豪奢な装飾はない。
参列者も少ない。
必要なのは、
ここで選ばれたという事実だけだった。
石の床。
白い光。
鐘楼の影。
それで十分だった。
⸻
誓い
青年と少女――
もう若者と呼ぶには、
少しだけ強くなった二人が並ぶ。
誓いの言葉は短い。
神の名より先に、
互いの名を呼ぶ。
それだけで、
過去に封じられていたすべてが、
静かに解かれていく。
指輪は、
特別な宝石ではない。
銀の輪。
修道院の鐘と、
同じ音色を持つ金属。
かつて、
鳴らされなかった鈴の代わりに。
⸻
母カテリーナ
式の後、
中庭の端に、
母カテリーナは立っていた。
金髪は、
もう若き日の輝きを失っている。
それでも、
儚い美しさは消えていない。
彼女は笑わない。
だが――
娘の姿を見た瞬間、
わずかに息を呑む。
それは、
誰にも見せなかった反応。
娘が、
自分で選んだ人の隣に立ち、
恐れずに前を向いている。
その光景が、
彼女の中の何かを、
確かに揺らした。
カルロが、
静かに彼女の隣に立つ。
二人は、言葉を交わさない。
代わりに、
同じ鐘の音を聞く。
⸻
初めての“感情”
鐘が鳴り終わる。
その瞬間、
カテリーナは、
ほんのわずかに――
目を伏せた。
涙ではない。
嗚咽でもない。
だが、
確かに感情だった。
「……よかった」
それは、
長い年月の末に、
ようやく口にできた言葉。
誰のためでもなく、
国のためでもなく。
ただ、
目の前の“未来”のための言葉。
カルロは、
何も言わない。
言えば、
過去が戻ってしまう気がした。
⸻
終わりに
かつて、
彼女は笑わなかった。
それは、
弱さではない。
守るために、
選び続けた結果だった。
だが――
その選択は、
次の世代に、
笑う自由を残した。
最後の鐘が鳴る。
今度こそ、
誰かを縛る音ではない。
選ばなかった人生が、
無意味だったわけではない。
それは、
次に選ぶ者のための道だった。
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