僕とあなたの直往曲折研修

まとりあ

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04.俊足爽やかイケメン

 「真飛斗先生!」
 職員用玄関を目指して階段を下りていると、後ろから呼び止められる。振り返ると僕を追いかけて来たであろう雅楽川先生が踊り場にいた。
「授業ですか?」
「いえ、一時間目は空いてるのでうちのクラスの体育を見に行きます」
「俺も行くので一緒に行きましょう!挨拶とかは朝で既に終わってしまって」
 この学校は教員の数も少なく、校舎も特別大きくないため朝で終わらせようと思えば終わらなくもない。
「そうなんですか、じゃあ行きましょう」
「はい!」

 雅楽川先生と玄関を出ると、生徒たちは話しながら授業の開始を待っていた。
 校庭に降りると、何人かの気づいた生徒が大きく手を振ってくる。
「交先生と七楽先生
来てるー!!」
「ほんとだ!」
 小さく手を振り返しつつ、体育倉庫前の日陰に向かう。雅楽川先生は遠くの席にいるファンに手を振るかのように腕を伸ばして手を振っていた。
 体育の先生が生徒に声をかけて授業が始まると、僕の隣まで歩いてきて壁によりかかった。
「今日は何をやるんですか?」
「リレーですかね。体育祭が近いので」
「体育祭ですか!いいですね~俺めっちゃ足速いんですよ!」
「たしかに速そうですね」
 誰とでも仲良くできる人は大抵運動神経も良いイメージがある。
 壁に寄り掛かりつつしゃがみこんで、リレーの走順に並び替えている生徒たちをぼうっと眺める。
「あの、真飛斗先生。先生もお忙しいですよね?なのにどうして授業を見に来るんですか?」
 考えたことがなかったので繋ぎ言葉を発しながら少し黙る。
 走順を忘れたと言って笑う人、怒りながらも教えてくれる人、最初からすぐに並んでいる人。簡単に性格がでる学校生活を、少しでも長く見て感じていたい。
「ありきたりですけど、本当に良いクラスなので頑張っている姿を見たいというか。でも全部見てる訳じゃないですよ。体育祭近いっていうのもあって、今は体育が多いです」
 少しの沈黙が流れ、何か変なことを言ってしまったかと先生の顔を見ると、パチリと目が合った。
「…めっちゃいい先生ですね」
「そ、そんな特別なことはしてないですよ。当然仕事も溜まりますし」
 歳をとるにつれて素直に褒められる機会が減っていたため少し気恥ずかしい。顔を背けるように生徒たちを見ると、各々走るための準備運動をしていた。
 するとこちらをみた一人が大きな声を出しながら手を振ってきた。
「交せんせーも来てよー!!」
 その一言が合図になったように他の子達も先生を呼び始める。ちなみに僕が走るのを苦手としていることを知っているからなのか僕の名前を呼ぶ人はいない。
「呼ばれてますけど、行かないんですか?」
「真飛斗先生は?」
「僕はこのあと授業ありますし、そもそも呼ばれてないので遠慮しておきます」
「えー…」
 渋そうな顔をするが、その間も先生を呼ぶ声は響いていた。
「ほら、先生は行ってきたらどうですか」
 生徒とのコミュニケーションはかなり大事になるし、みんなもかっこいい先生が来て一緒に居たいんだろう。
「先生が言うなら…じゃあ見ててくださいよ!」
 そう捨て台詞を吐いて日光の下に駆けて行った。
 喜びの歓声が響き、生徒たちの輪に入っていく雅楽川先生。
 (本当に秒で馴染んじゃった…すごいな…)
 明日の朝会で紹介されれば、もっと名前が広がって他クラスからも人気を得るだろう。心做しかいつもより活気づいているみんなを見つめる。
 (雅楽川先生はなんでも器用にこなしちゃうタイプっぽいなぁ…。もし初めからあんな人が担任だったらどうなってたかな…)
 と、ありもしない想像を少ししていると、現実に引き戻すように雅楽川先生の大きな声が耳に届いた。
「真飛斗せんせーい!!俺今から走ります!」
 なんの報告だろう見てればわかるけど…とツッコミたくなるが言っても意味は無いので手を口元に当ててできるだけ大声をだす。
「頑張ってくださーい!」
 僕の声が届いたのか嬉しそうに微笑んでテイクオーバーゾーンの少し手前側に移動する。バトンを受け取る姿勢を取って、少しの助走とともバトンを手にしてに走り出す。
「わ、速っ」
 思わず独り言が漏れてしまうほどの速度であっという間に前を走っていた生徒を抜かす。
 同じチームの生徒たちからも歓声があがり、他のチームは少し不満そうながらも先生を見つめている。
 いつの間にか一周を走り終えていた先生は駆け寄る生徒たちと軽く話してからコースを横切って僕の元に小走りで来た。
「俺、どうでした?」
 少し汗ばんだシャツをパタパタとはたきながら隣に座る。
「すごかったですね。陸上とかやってたんですか?」
「いや、中高テニスです。勧誘はされましたけどね」
「そりゃあれだけ速ければされますよね」
 どうやらリレーの方は勝敗が決まったらしく、先生の参加したチームが一位だったらしい。こちらに手を振りながら喜んでいる。
「先生のチーム勝ったみたいですよ。まぁクラスリレーだから全員仲間ですけど」
「そうみたいですね。でも良かったです!…真飛斗先生」
 名前を呼ばれて返事をしながら顔を向けると、雅楽川先生が少しにやにやとしながら僕を見ていた。
「かっこよかったですか?」
「えっ」
 整った顔を前にこんなことを聞かれたら男女関係なく戸惑ってしまうだろう。
 少しの間が空いてしまったが、顔を逸らして小さな声で言った。
「かっこよかった、ですよ…」
「へへっ、ありがとうございますっ!」
 顔は見えないが嬉しそうな声色から何となく表情が予想できる。
 学生相手に変なことを言ってしまったと恥ずかしくなり、なんとなくスマホで時間を確認する。授業開始から30分が経過しており、生徒たちは今から別の競技の練習をするようだ。僕にも仕事が残っているし、いつまでもここにいる訳にはいかないので立ち上がる。
「じゃあ僕はこの辺で。頑張ってくださいね」
「えー最後まで居ないんですか」
「居たいですけど、仕事も残ってるので」
「…俺手伝います」
 目を細めてジッと僕の顔を見つめてくる。まるで僕がここを離れるのが不満かのようだが、ずっと居てはキリが無くなってしまう。
「実習生にさせられませんよ。忙しいですし。フォーカスするところを間違えちゃだめですよ。それじゃ失礼しますね」
 軽く一礼をして校舎に向かって歩き出す。
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