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26、まさか、私が当て馬だったのデスカ?!
しおりを挟む雛子がダイニングテーブルに両手をついて、ゆっくり立ち上がった。
その顔からはいつものリ◯ちゃん人形のような愛らしさは消え失せ、大きな瞳にユラユラと怒りの色を浮かべている。
雛子に真っ直ぐ睨まれて、透の肩がビクンと跳ねた。
次いでその視線がキッと朝哉に向かうと、何故か朝哉が「ヒナ……ごめんなさい…」と謝った。たぶん生きるための条件反射なのだろう。
「黒瀬のご両親は、会社のために透さんに誰か女性をお世話しようとしているの? 大事な息子の意思を無視して、あくまでも大事な大事なクインパスを優先ですか?」
物言いは丁寧だけど、その声音には明らかな怒りが含まれている。
「私だって会社の繋がりのためにパーティーで朝哉と引き合わされた。何もお見合いが悪い事だとは思わないわ。だけど、一時は会社のために引き裂かれて、死にたいほど辛い思いもして……」
雛子が苦しそうに目蓋を震わせると、朝哉が立ち上がって彼女の肩を抱き、椅子に座らせる。
CEOは朝哉を会社の後継者に育てるために、朝哉をニューヨークに留学させ、雛子から遠ざけた過去がある。その時、雛子はまだ16歳の高校生で、朝哉にフラれたと思い込み、辛い日々を過ごした。
「黒瀬のお義父様は、その時のことを申し訳なかったって謝罪して下さった。なのにまた同じことを繰り返そうとしているの?!」
どうも怒りの矛先は、自分たちの思い通りに息子を動かそうとしている黒瀬の義父……つまりクインパスCEOへと向かっているらしい。
自分の身に起こったことが今度はヨーコの身にも起こるのではないか。CEOは雛子に謝罪しておきながら、また同じ事を繰り返すのかと、そう雛子は憤慨しているのだ。
「雛子さん、違うんだ。見合いをしたのはニューヨークに来る前で、それ以降は見合い話をストップしてもらっていて……」
隣の透の言葉に、今度はヨーコがギョッとした。
「……そうだったのデスカ?! 既にお見合いしたお相手がいるのデスカ?!」
黒瀬の長男としてお見合い相手は引く手数多だろう、いずれそんな話が来るのだろうとは思っていたけれど……。
思わず責めるような口調になると、透は申し訳なさそうにコクリと頷く。
「ガーーーン……デス…」
今現在お見合い話が継続中なのだとすれば、黒瀬家やクインパスから見ればヨーコは邪魔者。会社の発展を妨げるための存在だ。
「知りませんデシタ……まさかの私が当て馬……デスカ」
「違う! 見合い相手にはお断りしてニューヨークに来たはずだったんだ! それが何故かまだ保留中になっていて……」
「保留中……デスカ…」
「嘘っ、保留中?!最低!」
項垂れるヨーコに怒りの雛子。狼狽る黒瀬兄弟。カオスになって来た。
透がどう説明しようかと考えていると、それまで静観していた竹千代が口を開く。
「雛子さん、ヨーコさん、落ち着いて下さい。お二人はヨーコが雛子さんの時みたいにならないために、慎重になってるんだと思いますよ。……朝哉さん、透さん、そうですよね?」
水を向けられて、2人が同時に頷く。
「ヒナ、俺は次期クインパスのトップとして、会社の将来を考えなくてはならない立場だ。本来なら父さん側に立って考えるべきなんだろうけど……弟として、ヨーコの親友として、2人を応援したいと思ってるんだ」
透が言葉を引き取る。
「いや、俺がちゃんと説明していなかったのが悪かったんだ。変に萎縮させたくなかったし、自分だけで穏便に解決出来ると思っていたけど……内緒にされてる方が嫌だったよね」
不安そうなヨーコを見つめ、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「雛子さん……ヨーコ、俺の話を聞いて」
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