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25、馬鹿ップルでも良いのデス!
しおりを挟む木々が暖色系に色づく9月最終週。
ミッドタウンウエストにそびえ立つシルバータワーを見上げて、ヨーコは「スーハー」と大きく深呼吸をしていた。
「コレは……なかなかの緊張感デスネ」
「ハハッ、緊張してるの?」
「シマスヨ! スルに決まってるじゃナイデスカ!口から心臓が飛び出しそうデスヨ!」
「ハハッ、ヨーコの心臓が飛び出しちゃったら俺が困るなぁ……でも本当に飛び出したら俺が絶対に受け止めるから安心して」
「本当……デスカ?」
「うん、本当、本当」
馬鹿ップル丸出しの2人はもちろん透とヨーコ。
今日は朝哉夫妻から食事会のご招待を受けて来たのだ。
だけど、『食事会』が『お祝いの会』なのは一目瞭然で……。
「ううっ……だけど心配デス。天使のヒナコはともかく、私の本性を知り尽くしているトモヤとタケが何て言うか……きっと笑われマス」
「ヨーコの事を知り尽くしてるなんて聞き捨てならないな……」
隣に立つ透がほんの少しだけムッとして、だけどすぐに柔らかい表情に戻って目を細める。
「まあ、いいや。ヨーコ、笑われたら俺が笑い返してあげるから、大丈夫だよ」
「本当デスカ?」
「うん、本当」
約束のしるし……と言ってチュッとキスされた。
「ふふふっ」
ーーシアワセデス~!
何処からどう見ても馬鹿ップルなのは自分でも自覚している。
先日のマンハッタンデート以降、透とは心も身体もすっかり距離が縮まって、脳内から幸せホルモンがドバドバ溢れまくっている状態なのだ。
ちなみにあれ以降、ほぼほぼ毎晩、どちらかのアパートにお泊まり状態だ。
睡眠時間は削られるものの、行為の後は疲れてグッスリ眠れるし、心なしかお肌の調子もいいような気がする。精神的に満たされて仕事も頑張れる。
まさしく仕事も恋も充実した日々を送っていた。
「さあ、行こうか」
恋人繋ぎで手を引かれる。
「トオル……」
「ん、どうした?」
「大好きデスヨ」
「ん、俺も」
もう一度啄むようなキスをして、エントランスへと足を向けた。
*
パンッ! パンッ、パンッ!
「「「おめでとう~!」」」
部屋に入ってすぐに、盛大なクラッカーの音と笑顔で祝福された。
食事は大きな黒い桶に入った高級寿司。近所にある日本人経営の日本食店で握ってもらったのだそうだ。
「雛子が2人からじっくり話を聞きたいって言うからさ、今日は料理や片付けに煩わされることなく腰を据えて聞かせてもらうからな。さあ、座って」
朝哉が笑顔で椅子を勧める。
テーブルに飾られたバカラの花瓶には、白薔薇とブルースターとかすみ草。
「ブルースターは『幸福な愛』、『信じあう心』という意味があるのよ。白薔薇は『始まりの色』。始まったばかりの2人が信じ合い、想い合って、幸せになれますように!」
そう言って微笑みかける雛子に駆け寄って、ガバッとハグをした。
「ヒナコ、ありがとう……大好きデスヨ」
「私もヨーコさんが大好きよ」
星形の可憐なベビーブルーの花が、涙で滲んだ。
「透さん、ヨーコ、交際おめでとう。はい、これ。ヨーコ、飲みすぎるなよ!」
竹千代が差し出したのはティファニー のカデンツグラスセット。
水色の箱の中に、綺麗な曲線を描いたペアグラスが並んでいる。
「タケ~~~、嬉しいデス~!」
雛子に引き続き、こちらにも抱きつこうとしたら、後ろから腰に手を回して止められた。
「こら、抱きつくなら俺にしろ。全く油断ならないな」
溜息をつきながらヨーコを後ろから抱き締める透に、皆の生暖かい視線が降り注ぐ。
「うわっ、兄さんってこんな風にあからさまに愛情表現するタイプだったんだな……こっちが照れるわ」
「……うるさい。お前ほどじゃない」
「ううん、透さん、素敵です! たっぷり愛情表現をして、ヨーコさんをしっかり繋ぎ止めて下さいね!」
「ありがとう、頑張るよ」
透とヨーコはクスッと笑って目を合わせると、漸く並んで席についた。
笑われもしなかったし軽蔑もされなかった。
3人とも自分のことのように喜んで、心から祝福してくれている。
「ふふっ、まだ付き合い始めたというだけなのに、まるで結婚祝いなみの豪華さデスネ」
「俺は今すぐ結婚祝いにしちゃいたいんだけどな」
「駄目デスヨ。ご両親のお許しもいただいてませんカラネ」
なんの気なしに発した言葉だったのに、透と朝哉がピキッと固まった……ような気がした。
ーー何デスカ? 急に空気が冷え込んだような……。
「父さんと母さんにはいつ言うの?」
朝哉が箸をパチン……と箸置きに置いて、低い声で聞く。
「……近いうちに。変な女を勝手に充てがわれないうちに……とは、思ってる」
「タイミングを間違えるなよ」
「それも分かってる」
ーーこれは、もしかしたら……。
やはり黒瀬の御曹司は交際相手も厳選されるのだろう。
しかも透はもう29歳。弟が既に結婚したことを考えると、次は長男の結婚をと考えないわけがない。
ーーだけどそれは黒瀬家の問題。私が口出しして良いことでは無い…デスヨネ……。
せっかくのお祝いの会なのだ。どうにか話題を変えようと口を開こうとした時……。
「それはどういう意味ですか?」
天使の雛子が、地を這うような低くて重々しい声を発した。
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