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41、その想い、受け止めマシタ。
しおりを挟む「それでお見合いに漕ぎ着けてね、私の事を覚えていますか? って聞いたら、勿論ですよ……ってニコッと微笑んでくれて」
茜はその時の情景を思い浮かべながら目を細める。
お約束の、『後は若いお二人だけでごゆっくり』で、日本庭園を歩きながら話をしたのだと言う。
あの日のパーティーでの事、9月からのニューヨーク行きの事。 話題は尽きる事なく、会話が弾んだ。
だけど良い雰囲気だと思っていたのは茜だけだった。
「今は仕事に精進したい。それ以外のことは考えられないし、一生結婚も出来ないと思う。あなたに素敵な出会いがある事を祈っています……って」
言い方は柔らかいけれど、要はその場でフラれてしまったのだ。
それでも、『今は仕事に集中したい』と言っていた。
だったら仕事が落ち着いたらどうだろう? だって彼が好きな人には既に想い人がいるのだ。
これから一生その人を想っているわけでも無いだろうし、ニューヨークにいる間に恋心が消えて新しい恋をする気になるかも知れない。
だから両親に『透さんの帰国を待ちたい』と言った。
それまで恋愛に前向きではなかった娘が珍しく積極的になったのを見て、両親は『それなら』と黒瀬家に帰国後まで待たせて欲しい旨を伝えた。
そして今日、透が緊急帰国して来た。
「良い話では無いかも知れないな……とは思っていたの」
「エッ、そうなのデスカ!」
思わず大きな声が出てしまい、ヨーコは両手で口を押さえた。
「帰って来いって電話して来たのは母親だったんだけどね、 どうも歯切れが悪い感じで……嫌な予感はしてたの」
それでもほんの少しは期待もしていたのだと言う。
たぶん駄目だろう。でも、もしかしたら……。
「だけど、家の前にあなたがいて、それが透さんが言っていた理想そのままの女性で……」
ヨーコがニューヨーク支社にいると聞いた時点で、予感が確信に変わった。彼らはニューヨークで一緒に働いている。会ってしまったのだ。
そしてヨーコが透を追い掛けて日本に来たと聞き、彼の想いが成就した事を悟ったのだった。
「透さんは、お見合いを断りに来るのでしょう?」
顔を覗き込みながら聞かれて、ヨーコは答えに詰まった。
ーー私が何を言っても……結局は彼女を悲しませるのデスヨネ。
だって、透を巡る戦いの勝敗はもう決している。
ここでヨーコが申し訳なさそうにしても、それは所詮、勝者の余裕でしか無い。
今の彼女は同情なんて欲しくないだろう。
だから彼女が正直に話してくれたように、ヨーコも自分の気持ちを真っ直ぐに伝える事にした。
「私も……トオルの笑顔が好きなのデス」
過去の恋愛によるトラウマ。現実の恋愛から逃げてBLの世界で満足していた自分。
透と出会い、心から好きな人と一緒にいる喜びを知ったこと。
身分差への葛藤と戸惑い。透の父親、時宗からの厳しい言葉。
一度は諦めるべきだと思って……だけど出来ずに追い掛けて来た。仲間が背中を押してくれた。
「もう私1人だけの気持ちでは無いのデス。だから私もトオルを諦めるわけには行かないのデス」
「……そう。透さんの想いが届いて、ヨーコさんもトラウマから抜け出せて……良かったわ」
「お優しいのデスネ」
だって人を好きになる喜びも苦しみも、今なら良くわかる。
透が帰国したと聞いて急いで帰って来る茜の気持ちも……。
「ううん、だって私は……きっとまだ、あなた程の深い気持ちにはなっていないわ。最初から片想いのままだったんですもの」
ただの邪魔者ね……と自虐的に微笑む彼女に、今度こそかける言葉を失った。
「さあ、そろそろお出迎えの準備をしなくちゃ」
スッと立ち上がってドレスのシワをのばす彼女を見上げて、それでもヨーコは、これだけを告げた。
「アカネさん……私はあなたのようなステキな方がライバルで良かったデス」
「ふふっ……ライバルだと思っていただけるなんて、光栄だわ」
颯爽と去って行く後ろ姿を見送りながら、自分と出会わなければ、透はいずれ、茜と結婚していたのではないだろうか……と思った。
だってそれほど彼女は素敵な女性だった。家柄も条件も申し分無く、周囲にも簡単に認められるだろう。
だけど……。
もしもの話をしたって仕方がない。
その前に透とヨーコは出会い、そしてニューヨークで再会してしまった。
そして何より……
ーー私だってもう、透を諦めるなんて出来ないのデス。
もう駄目かもしれないと思いながら、決死の覚悟で日本まで追い掛け、この本城家にまで来てしまったのだ。
恋のためなら人はどこまでも愚かになるのだと知った。
そして愚かにも必死になっている自分が、嫌いではないのだ。
植え込みの陰で息を潜めながら、居間へと続く大きなスライドドアを見つめる。
中からこちらに向かって立つ茜の姿が見えた。
ガラスが反射してハッキリは見えないけれど、その後方に人の姿が見える。黒瀬家の面々だ。
手を広げ、白いレースのカーテンの端を持つ茜と目が合った。
彼女が無言で頷いて、ヨーコも頷き返して……シャッとカーテンが閉じられた。
ーーアカネさん、ありがとうございます。あなたのその想い……しかと受け止めマシタ!
ヨーコは急いで立ち上がると、腰を屈めてスライドドアの横の壁にピッタリと背中をつけた。
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