マジメ御曹司を腐の沼に引き摺り込んだつもりが恋に堕ちていました

田沢みん

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49、コレは羞恥プレイなのデスカ?!

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 熱くて幸せな夜が明け、若干……かなりドキドキしながら黒瀬家に戻ると、黒瀬家の面々がダイニングテーブルに向かって勢揃いしていた。

「おお、帰ったか。早く席に着くがいい」

 本当はホテルで遅めの朝食を……と思っていたのだけれど、朝になって琴子から透に『朝食は家に帰って来て食べるように』とメールが届いていたのに気付き、慌てて身支度を整え帰って来たのだ。

 行きは振袖。帰りは新品のワンピース。
 ううっ、気まずい事この上ない。


「ワオ、豪勢ですネ!」

 テーブルには尾頭付きの鯛にお赤飯、ハマグリの味噌汁に野菜の煮物。紅白のなます漬けまである。

 昨日は結納の後ですぐに出て来てしまったから、その代わりに今から祝い膳を……という事なのかも知れない。
 大事な息子が婚約者を迎えたと思ったら、今日の午後にはニューヨークに行ってしまうのだ。
 家族で募る話もあっただろうに……。

 色欲に走ってしまった己を振り返り、なんだか申し訳なく思う。


「おっ、朝から赤飯って、珍しいな」

 言いながら2人で並んで席に着くと、サキが目の前にコトリと煎茶を置きながら、フフッと含み笑いをした。

「ふふふっ、お祝いで御座いますよ」

ーーやはりっ!

「透様が朝帰りとは、成長されたもので御座いますね。 サキは感無量で御座いますよ」

 エプロンの裾で目尻を拭いながら、キッチンへと戻って行く。

ーーんっ?

 隣に座る透と顔を見合わせる。

「本当、あの朴念仁だった透が朝帰り出来るようになるなんてねぇ~。これはお祝いしなきゃってサキさんと話し合ってね」
「母さん?!」

「よし、男になったな、透」
「父さん!」

「ふむふむ、仲良きことは美しきかな」
「祖父さんまで?!」

ーーそっちのお祝いっ?!

 腕を組みながらフムフムと頷いている定治を見るにあたって、コレはもう駄目だと声が出た。

「皆様、お許しを~!」

ーーコレは相当レベルの高い羞恥プレイ!!!

 膝に手を置き項垂れると、一斉に家人の優しい眼差しが注がれる。

「ヨーコさん、恥ずかしがる事は無いのよ。あなたは既に黒瀬家の一員になったも同然。向こうでも透をよろしくお願いしますね」

「ヨーコさん、私たちは嬉しいんだよ。型にはまった行動しかせずに、自己主張を一切して来なかった透が、30歳を前にやんちゃ坊主になりおった。遅めの反抗期だな」

 人間ひとは反抗期を迎えて漸く一人前だ……と豪快に笑う定治を見て、やはり経済界の大物ドンは、器も考え方も人一倍なのだと実感した。

 気まずいながらも暖かい気持ちで鯛の身をほぐしていると、「あっ、そう言えば……」と透が口を開く。

「サキさん、振袖はクリーニングに出してあるから、家に届いたらニューヨークに送ってくれるかな。 向こうでも着る機会があるだろうから」

ーーなっ、何を言う!

「あらあら、まあまあ……」

 キッチンの棚の向こうからヒョッコリ顔を出したサキさんとバッチリ目が合った。

「……承知致しましたよ。オホホホッ」

ーー羞恥プレイ第二弾! もう恥ずか死ぬしかない! 今度こそ切腹デス!

「そうだな、あっちはパーティーの機会も多い。 アメリカ人相手には着物を着て行った方が会話に花が咲くだろう」
「うん。綺麗なヨーコを見せびらかしたいんだ。絶対に触れさせはしないけどね」

「何を言っておる。向こうじゃ挨拶はハグが基本だろうに」
「そんな事させるかよっ! 指一本たりとも触らせるわけないだろ」

 定治と透の会話に、お茶を注ぎに来たサキと琴子が目を合わせる。

「あらまあ、本当にゾッコンね」
「そうで御座いますね。本当に仲睦まじくて……」

 2人から揃って生暖かい視線を向けられ、いたたまれなくなった。

「私……切腹して参りマス!」

 テーブルに両手をついてガタン! と立ち上がると、透が箸をポロリと手から滑り落として、ヨーコの腕に取り縋った。

「ヨーコ、どうしたの?! お赤飯が苦手だった? ハマグリか? ハマグリなのか?!」

 その姿を見て、黒瀬家の皆が、一斉に笑った。
 この豪快で突拍子もなくて、厳しくも暖かい黒瀬家の一員に、もうすぐ自分もなるのだ……。
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