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23、帰らなきゃ
しおりを挟む3年間の期限まで残り半年を切った頃。
南アジアをウロウロしていた俺は、旅の終わりをスタート地点のインドと決め、その前にネパールに立ち寄った。
人よりも神々の方が多くいるといわれている国、ネパール。
ヒンドゥ教や仏教など異なる宗教が混在し、街の至る所に大小様々な宗教施設や仏像、神の形をした像が散在している。
沢木耕太郎の『深夜特急』を愛読していた俺は、真っ先にスワヤンブナート寺院に向かい、小高い丘の上の展望台からカトマンズの街を一望した。
ニューヨークの写真雑誌が主催しているフォトコンテストへの応募を目指していた俺は、何枚か候補となりそうな写真を撮っていながらも、コレという決め手に欠けて、悩んでいた。
悩んではいたけれど、不思議と焦ってはいなかった。
これまでの旅で、確実に自分は変わったと思う。 そして吸収した事も数多くある。
その経験が自分に力を与えてくれるはずだ、きっと素晴らしい写真が撮れる。
何故か根拠のない自信だけはあって、「うん」と力強く頷いてから、長い石段を下りて行った。
その日、カメラを片手に人混み溢れるカトマンズの街を歩いていた俺は、人の波に押される形でガイドブックに載っているような大きな寺院の前まで来た。
見るとそこから先にもまだまだ長い列が出来ている。
混雑を避けて裏道に入ってみたら、頭の上にお供えの入った籠を乗せ、小さな寺院に入って行く家族連れを見つけた。
「お参りするのですか? 何の神様ですか?」
身振り手振りと英語を交えて尋ねると、ラッキーなことに英語が通じた。
「ガネーシャ神です。今日は火曜日なので」
火曜日と土曜日がガネーシャ神の特別な曜日らしく、毎週この日にはお供物を持って訪れているのだという。
さすが信仰心の厚いネパール人だけある。
外国人の出入りも写真撮影も大丈夫だと言うので、彼らについて中に入った。
そのガネーシャ像は、地元の人しか行かないような古びた寺院の奥にひっそりと祀られていた。
訪れる人々が触っていくのだろう。元々は黄金色であったであろう像の頭や鼻が剥げている。
象の顔と人間の体を持つ、ヒンドゥー教の神。
あらゆる事象を司る万能の神は、障害を取り除いて成功に導く力もあると言う。
ーーガネーシャ様、俺にも力を!
グッと目を瞑って長い間お祈りしてから隣を見ると、家族の中の1人、10歳くらいの女の子が熱心に祈りを捧げていた。
薄暗い建物の中、窓から射し込む光を浴びて、彼女がやけに大人びて、そして神聖に見えた。
まるで彼女自身が神であるかの如く……。
思わずカメラを構え、彼女が顔を上げた、その瞬間にシャッターを切った。
光の中、空中を舞う埃でさえも美しく、艶やかな睫毛に縁取られた漆黒の瞳は、何処までも澄んでいて……。
カシャッ!
ネパールの寺院で少女がガネーシャ像に祈りを捧げる姿を撮ったその写真、『ただ祈る』がニューヨークのコンクールで大賞を受賞したと知ったのは、インドに移って1ヶ月ほど経った頃だった。
ーーやった!
良かった。アイツの誕生日にギリギリ間に合った。
受賞発表の式典は来月だけど、まずは約束を果たさなくてはいけない。
ーーそうだ、帰らなきゃ。日本へ、彩乃の待つ、俺たちのアパートへ……。
そうして俺は飛行機に飛び乗り、喜び勇んで帰って来たのだった。
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