45 / 177
<< 妹と親友への遺言 >> side 大志
20、山崎さん事件 (3)
しおりを挟む『ねえ、日野くんが塩対応らしいんだけど』
京子さんからのメールに若干イラッとしながらも、俺は『あまりグイグイ行くなって言っただろ』と返事を送る。
先日のカフェテリアで冬馬とロースクールの話題で盛り上がった山崎さんは、情報交換という名目でメアドの交換に成功した。
嬉しくて仕方がないんだろうけど、たぶん早速メールを送りまくっているんじゃなかろうか。
それに対する冬馬の返事が素っ気なくて京子さんに愚痴ったんだろう。そして京子さんが俺に文句を言ってくるという……。
そんなの知るかよっ!って思ったけれど、協力すると言ったのは俺だし、それがひいては俺の心の安定のためにもなるので、グッと堪えて策を練る。
ーー山崎さんって大人しそうに見えたけど結構粘着質なのかな。いちいち京子さん経由で愚痴ってくるのもなぁ……。
桜子だったらこんな事は絶対にしない。『アドバイスをありがとう』ってメールが来たら、『どういたしまして』、『お役に立てて良かったです』くらいの控え目な返事だけで、あとは連絡したくても出来ずにジッと待ってるんだ……。
なんて考えたところで、自分の中で、冬馬のタイプ=桜子で固定されてきている事に愕然とする。
いやいやいやいや、まだ確定じゃないし。冬馬みたいなメガネ美人の塾講師を相手にしてたような百戦錬磨のモテ男がわざわざ中学生を狙いに行く必要ないし……。
ーーやっぱり山崎さんに頑張ってもらおう。
次の週末に、冬馬と買い物に行く事になった。
俺が家族のクリスマスプレゼントを買いに行くと言ったら、冬馬も行きたいと言い出したからだ。
当然それを利用しない手は無いから、山崎さんにも声を掛けて、3人で出掛けることになった。
頃合いを見計らって俺だけ抜ける作戦だ。
近くの大型ショッピングモールに集合して、アクセサリーや雑貨の店をウロウロしていると、不意に冬馬が「桜子ちゃんにコレはどうかな?」と聞いてきた。
手には真っ白いミトンの手袋。
「ああ、手袋か……それもいいけど、俺は財布を贈ろうかと思ってて……」
「違う、俺からのプレゼントにどうかって、兄のお前に相談してるんだ」
「……えっ?」
途端に脳内で『ガーン!』てフライパンを叩いたみたいな音がして、思わず一歩後ろにフラついた。
「お前が……桜子に? そんなの別にいいって!お前いつも長靴みたいなのに入ったお菓子の詰め合わせを持ってきてたじゃん。今年もそれでいいって!」
我が家では桜子たちが家族になって以来、毎年クリスマスは家族でお祝いしていて、冬馬も大学1年のクリスマスから招待している。
コイツは2年連続で桜子に赤い長靴入りのお菓子を持って来ていたから、今年もそうするものだと思っていたんだけど……。
「だけど、女子中学生へのプレゼントにお菓子は無いな……と思ってさ。ねえ山崎さん、女の子ってミトンと5本指のとどっちが好きなの?」
ーーおいおい、自分に惚れてる女に他の女への贈り物の相談かよ。そして山崎さんも相談されて喜んでるし。
胸がザワザワする。黒いものが体の奥底から這い上がってきて、全身を飲み込んでいくような感覚。
ーーヤバい……俺は今、コイツにプレゼントを買って欲しくないって思ってる。
兄として、『おお、妹が喜ぶよ。ありがとな』って言うべきところなんだろうけど……そんな事されたら絶対に桜子が喜ぶに決まってる。
俺が贈るプレゼント以上に大喜びするのが目に浮かぶ。そんなの絶対に嫌だ。
その時、俺のスマホが鳴って、思考の淵から現実に引き戻された。
「えっ、桜子?」
慌てて電話に出ると、桜子が、今どこにいるのだと聞いてくる。
「母さんたちへのクリスマスプレゼントを選んでたんだ。お前も意見があったら言っとけよ」
親へのクリスマスプレゼントは毎年俺が買っていて、桜子からは年齢に応じて百円とか五百円とかだけ貰って、2人からの合同プレゼントという体で渡している。
『えっ、1人で選んでるの? 今年は私も一緒に選びたかったな……』
ーー2人でショッピングか……悪くない。ついでに人気のスイーツを食べに行ってもいいな……。
「……それじゃ、一緒に選ぶ?」
『えっ、今から? いいの?』
「ちょっと待て、お前だけで電車は危険だ。俺が一旦帰るから、それから一緒に出掛けよう」
『それじゃ時間が勿体ないよ。昼間だし、1人で行ける。大丈夫』
「絶対に駄目だ!家で待ってろ!絶対だぞ!」
電話を切ると、冬馬と山崎さんが何事かという目で見ている。
「あ~……あのさ、俺は妹と買い物に行くことにしたんで、ここで抜けるわ」
「えっ、桜子ちゃん?」
前のめりで聞いてきた冬馬に若干の優越感を感じながら、困ったような顔をして答える。
「そう。アイツ電車で来るって言うけど危険だから迎えに行く。たぶんここには戻らず近場の店に行くと思うから、お前たちとは別行動ってことで。じゃあな!」
良かった。ナチュラルに別行動になれた。
これで当初の予定通りに冬馬と山崎さんを2人きりに出来るし、俺は桜子とお買い物デートだ。ラッキー。
桜子を待たせていると思うと心が逸る。
駆け足でエレベーターに飛び込むと、扉が閉まる直前に……えっ、冬馬?!
冬馬は閉じかけのドアに身体を突っ込んで無理矢理入ってくると、手早く『閉』ボタンを押した。
「おいっ、冬馬!お前何してるんだよ!」
「……買い物に行くんだろ? 俺も一緒に行く」
「馬鹿野郎!山崎さんを置き去りにしてんじゃねえよ!戻れ!」
「彼女には冬馬と一緒に行くって言ってきた。別に買い物くらい1人で出来るだろ。桜子ちゃんが1人で来るって言ってた方が大問題だ」
「だから俺が行くから……」
「いや、俺も行く」
その表情はもう揺るぎない感じで、絶対について行くって決意が漲っていて……。
俺はまた気付いてしまった。慎重派で控え目なはずの冬馬は、桜子に関する事だけは大胆で強引になるんだって事を……。
黒いドロドロしたものが、俺の中で沈殿していくのが分かった。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。