仮初めの花嫁 義理で娶られた妻は夫に溺愛されてます!?

田沢みん

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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

80(ラスト)、妹と親友への遺言

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 パチン

 最後の1ピースを嵌め込んだ途端、桜子がパアッと表情を輝かせて手を叩いた。

「わぁっ、出来た!」
「うん、出来たな」

 4月第4週のあたまになって、とうとうジグソーパズルが完成した。
 転院して1週間くらい経った頃に買って来てもらったやつだから、約2週間掛かったということか。

 元気な頃なら風景画の500ピースなんて2~3日で完成できたろうから予想よりもかなり時間が掛かってしまったけれど、生きているうちに仕上げられたんだから良しとしよう。

 桜子はベッドテーブルの反対側からこちら側に移動してくると、俺の肩にぴったり寄り添って、出来上がったパズルをマジマジと眺める。
 下敷きにしているガラスフレームの板ごと少し傾けて持つと、

「うん、やっぱり綺麗……ねっ、お兄ちゃん」

 感動の表情でもう一度俺を見た。

「ああ、俺とお前の合作だ」

 パズルをするにはかなりの集中力が必要で、ジッと絵を見ているとすぐに疲れてしまうものだから、ベッドにもたれて全体を眺めながら俺が口頭で指示を出して桜子がピースを嵌めるという事が多々あった。
 それに、力の入りにくい震える指先ではピースを掴みにくくて驚くほどのスローペースだったから、1人だけだったらまだ半分も出来ていなかっただろう。

「新しいのを買って来ようか? 今度は1000ピース」
「いや……いい」

ーーこれだけで十分だ。

 桜子は俺に希望を持たせたくて、まだ生きていて欲しくてそう言ってくれているんだろうけど……500ピースを完成させるのに2週間かかったんだ。1000ピースならきっと1ヶ月。
 今から1ヶ月は……多分もう無理だろう。

 未完成のパズルを遺品にされるほど使いみちに困るものは無い。
 そんなものを遺して逝くくらいなら、たった1枚、2人で仕上げた完成品を飾ってもらう方が潔い。

 最初で最後の2人の作品が桜子の手元に残る……。
 咄嗟についた嘘で買って来てもらった物だったけれど、結果的にはいい思い出が一つ増えることになって良かったな……と思った。


 トントン……

 ノックの音がして、ドアの隙間から冬馬の顔が遠慮がちに覗いた。

「いいよ、入れよ」

 冬馬は入ってくるなり完成したパズルを目ざとく見つけて、今さっき桜子がやったみたいに下敷きごと傾けてマジマジと見つめ、満足げに頷いた。

「うん、やっぱりいいな。表面をコーティングしてこの部屋に飾ろう。今度のりを買って来るよ」

「あっ、それいいかも。お兄ちゃん、どこに飾る?」
「ベッドに寝ながら眺められる位置なら何処でもいいよ」

「おっ、この辺りはどうだ? 壁は丈夫なのかな」

 冬馬が壁に近付いて材質を確かめていると、桜子が俺の足元の方の壁に行って「冬馬さん、この辺りはどう?」と声を掛ける。

「ああ、そこも良さそうだな」

 2人揃って背中を向けて、壁をコンコン叩きながら微笑み合っている。

ーーチクショウ、仲良くしやがって。お似合いじゃねえか。

 2つ並んだ背中は仲睦まじくてお似合いで、まるで2人の未来を暗示しているように見えた。
 俺はこのベッドで最期を迎え、コイツらは2人で新しい未来へと進んで行くんだな。

ーー不公平だよな……なんで俺だけが……。

 そこまで考えて苦笑する。

 そんなのはもう何度も何度も考えて、沢山葛藤して乗り越えて来た筈じゃないか。
 
 何度も想像してみたことがある。
 病気になったのがもしも桜子だったら……そんなの絶対に嫌だ。あり得ない。
 それじゃあ冬馬だったら……それもやっぱり嫌なんだ。こんな風に苦しむアイツの姿なんて見たくもない。

 それじゃあもう、仕方ないよな。
 こうなるのは運命で、俺と桜子が出会ったのも、俺と冬馬が出会ったのも、俺が2人を引き合わせたのも病気になるのも全部運命で……。

 神様、俺を2人に出会わせてくれてありがとうございました。

 桜子に出会わせてくれて……自分の命よりも大切な存在を、たった1人を心から愛することを教えてくれて……ありがとうございました。

 そうか、俺のおかげで2人がこれから幸せになれるのなら……桜子が冬馬の隣で笑っていられるのなら……俺の人生は無駄じゃなかったって事になるのかな。


「ねえお兄ちゃん、ここでどう? そこからちゃんと見える?」
「……ん? ああ、その辺りでいいんじゃないかな」

 壁に手を伸ばしながら振り返る桜子が、窓から差し込む光でキラキラ輝いていた。

ーーああ、本当に綺麗だな。

 俺は鼻をスンと一つ啜ると、大きく息を吸って2人に呼び掛ける。

「なあ、今から2人で糊を買いに行って来いよ」

「えっ?」
「でも……」

 桜子と冬馬が顔を見合わせる。

「ついでに夕食もゆっくり食べて来てくれ。俺は今から1人でゆっくり休みたいんだ」

「そうか……分かった。桜子ちゃん、行こうか」
「はい。それじゃお兄ちゃん、行って来るね」
「おう」

 2人揃ってドアへと向かい、桜子を先に廊下に出したところで冬馬が振り向いた。

「大志、ゼリーは何味がいい?」

ーーああ、コイツは本当に……。

「バカヤロウ! ゼリーばかりでいい加減飽きたんだよ! 今度はプリンだ!」
「……分かった。プリンを買って帰るから待ってろよ」

 泣き笑いの顔で言ってやったら、アイツも何故かちょっと泣きそうな、申し訳なさそうな表情を残してドアを閉めた。

 1人残された俺は、ティッシュで目尻を拭い、鼻を噛んでから大きく息を吐く。

「……よし、書こう」

 手が届くところに置かれた3段ケースからファイルを1冊取り出し、中に挟まれた便箋を1枚ベッドテーブルに置く。

 今まで書こう書こうと思いながら、なかなか書き出すことが出来なかったアイツらへの手紙。
 だけど今なら気持ちを上手く伝えられそうな気がするんだ。

 ペンケースからペンを取り出すと、「ふうっ」と息を整えて、便箋に宛名から書き出す。

『桜子へ』

 だけどそこまで書いたところで、クシャリと丸めてゴミ箱に捨てた。

 違うな……これは2人に一緒に読んでもらわなきゃ。
 それぞれに『お前らは両想いなんだぞ』って言ったって、アイツらの事だ、あれこれ考えて行動に移せないだろう。

ーーこれが俺に出来る最期のプレゼント。

 俺が最期に遺す、大切な妹と親友への遺言だ。


------------------------

桜子、 そして冬馬へ


まずは、 桜子。

桜子、 俺はこの手紙を書きながら、 お前が初めて八神家に来た日のことを思い出している………

---------------------------


 母親の後ろからひょっこり顔を出した座敷童子みたいな可愛い女の子。
 俺の人差し指をちょこんと握り、クリスマスツリーの下、花咲くような笑顔を見せた。

ーーうん、幸せだな……。

 思い出すと自然に笑みが浮かんで来る。

 2人がこの手紙を読む姿を想像しながら、俺は1文字1文字に心を込めて、ゆっくりと丁寧に、想いの丈を綴って行った。

 窓の外では緑が煌めき、何処かから小鳥のさえずりが聞こえていた。



Fin



*・゜゚・*:.。..。.:*・' .。.:*・゜゚・** .。.:*・゜゚・*

『妹と親友への遺言 side大志』を読んでいただきありがとうございました。
 終始鬱々した内容であるにも関わらず、ここまで読み終えて下さった皆様には感謝しかありません。

 途中で挫折しそうになった時に励まして下さった皆様、感想を下さった皆様に背中を押されてどうにか描き終える事が出来ました。
 本当にありがとうございました。

『妹と親友への遺言 side大志』は一応これで終わりとなりますが、今後『外伝』としてジョンさんと水口さんに宛てた大志の手紙の内容と共に、それぞれの目線でのお話、そして桜子と冬馬のその後、そして大志の最期……はちょっとどうするか保留中ですが、そこまでで『兄の遺言』は本当に終わりとなります。

 よろしければ最後までお付き合いいただければ幸いです。
 また、ここでサヨウナラの方も、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
 また次の作品でお会い出来るのを楽しみにしています。
 
2020年3月

 田沢みん拝
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