124 / 169
【幕間】辻、心のツッコミ (1)
しおりを挟む「なあ、お前って彼女と長いんだろ? プロポーズとか考えてんの?」
ーーほら来たっ!
昼休憩の時間に『奢ってやるよ』と部長室に連れ込まれた時からそうなんじゃないかとは思っていた。
『好きなのを頼めよ。極上ちらしか?』と寿司のメニューを手渡された時に確信した。
ーー天馬先生、またしても恋愛相談ですね。そうなんですね!
俺は知っている。『天馬先生の質問の裏に楓花ちゃんアリ』だ。
『お前って彼女いるの?』
『お前って彼女と喧嘩したことってある?』
『泣かせた相手と、どうしたら早く仲直り出来る?』
『辻ってさ、彼女と付き合ってどれくらいで同棲を始めたの?』
天馬先生が疑問形で話しかけて来る時は、ほぼ100パーセントの確率で彼女との付き合いに関する相談だ。
天馬先生は素直じゃない。ちゃんと聞いてくれれば何でも速攻で教えてあげるのに、いちいち間に質問を挟んでくる。
最初は、俺のプライベートに興味があるのかな? 俺ってめちゃくちゃ懐かれてね?
……なんて思っていたけれど、話を聞いているうちに、鋭い俺はピコン!と気付いてしまった。
ーーこれって恋愛相談じゃん……。
何が従兄弟だよ! どこの中高生の言い訳だよっ!
ーーえっ、マジですか……。
高身長、高収入、高学歴。
顔も中身も完璧で、女なんて選び放題の超絶モテ男が、実は恋愛慣れしていない……だと?!
天馬先生は2コ上の先輩で、俺が大学に入学した時には既に有名人だった。
まあ、あの見かけであの優秀さだから当然だろうな。
同じく大学の有名人で、入学早々ミスにも選ばれたという水瀬椿先輩とはいつもつるんでいて、あの2人が並んで歩いていると凄い迫力で圧巻だった。
『絵になる2人』っていうのは、ああいう事を言うんだろうな。
天馬先輩の周囲には常に人が集まっていて、彼が動くと人の波も視線もザザッと移動した。
どこにいても目立っていたしみんなの憧れの的だったけれど、俺たち後輩が気軽に話しかけられるような人じゃ無かったし、もちろん俺も遠巻きに見つめているだけしか出来なくて、その頃はただの後輩で、しがないモブの1人だったんだ。
医学部卒業後も大学に残り研修医生活をスタートさせた俺は、そこで天馬先輩と再会した。
天馬先輩は立派な天馬先生になっていて、そこでも彼はやっぱり有名人だった。
『柊詣で』なんて言葉を知ったのもその頃だ。
優秀な彼を自分の医局に引き込もうと、各科の医局長やトップクラスが彼のいる研修医室に連日通い詰め、寿司だ焼肉だ銀座のクラブだと接待攻勢を仕掛け、火花を散らしあっていたのだと言う。
そんな天馬先生が結局選んだのは消化器外科だった。まあ、実家のことを考えたらそれが自然の流れだろうな。
消化器外科の新人だった天馬先生と各科巡回中の研修医として再会した俺は、今度はただのモブじゃ無かった。
『大学の後輩』を武器に持ち前の人懐っこさを発揮した俺は、消化器外科の飲み会や勉強会に積極的に顔を出して、一緒に飲みに連れて行ってもらうくらいの仲にまで昇進を遂げた。
側で見ている天馬先生は、立ち居振る舞いがスムーズで、仕事の出来る男で、寄ってくる女の躱し方も上手くて……同性から見ても惚れぼれするくらいで……。
ーー天馬先生めちゃくちゃカッコいい!マジでリスペクトだ!
俺は天馬先生のいる消化器外科に進むと決めた。
だけど俺が彼と一緒に働くことは叶わなかったんだ。
ーーえっ……嘘だろ?!
天馬先生が退局し、大学病院を辞めた。
*・゜゚・*:.。..。*・:.。. .。.:*・゜゚・**・゜゚・*:.。..。.:**:.・*
ちょいちょい登場する辻医師目線のお話です。
彼から見た病院での天馬や、天馬と椿の事を書きたくなって急遽追加しました。
読んでも読まなくても本編にはあまり関係ありません。
ちよ様、ヒントをいただきありがとうございました。
11
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる