【R-18】キスからはじまるエトセトラ【完結】

田沢みん

文字の大きさ
125 / 169

【幕間】辻、心のツッコミ (2)

しおりを挟む

 俺が研修医として入った大学病院でも天馬先生の隣には水瀬先生がいて、2人は付き合っているとか、婚約してるらしいとかいう噂が流れていた。

ーー婚約か……まあ、自然な流れだよな。

 天馬先生は大学病院で勤務しながらも、たまに実家の病院にも行って手伝いをしている。
 そこに水瀬先生も当直のバイトに行っているというのだから、親公認の付き合いという事なんだろう。

 それが突如、天馬先生が大学を去るという。
 水瀬先生と破局したとか、天馬先生が浮気したとか、他の女を連れてホテルに入っていくのを見たとか部長を怒らせたとか、いろいろな噂が飛び交ったけれど、天馬先生本人は至って何も変わらず、退職のその日まで普通に仕事をこなしていた。

 送別会の日には水瀬先生の動向にも注目が集まった。
 だけどそちらも至って何も変わらず、彼女が天馬先生の隣を陣取ってビールを注ぎ足しながら、
『ここでは一緒に働けなくなるけれど、バイトの方では引き続きよろしくね』
 なんて笑顔で言っていたから、噂の方もデマだったんだという流れになり、その後水瀬先生が他の相手と結婚したことで自然に終息していった。


 2年間の研修期間が終わり、さてこれからどうしようかと思った時、俺は迷わず天馬先生の元を訪れていた。

「『柊胃腸科』で雇って下さいよ」

 開口一番でそう告げた俺に天馬先生は口をあんぐりさせて、
『俺のとこに来ても大した給料はやれないぞ』
『大学に残った方がいいんじゃないか?』
『あっちでもっと学ぶことがあるだろう』

 なんて言っていたけれど、俺の決心が固いと知ると、「分かったよ。だけど手加減しないからな、覚悟しておけよ」と、最後は右手を差し出してくれた。

 覚悟なら大学を辞めると決めた時にとっくにしたし、学ぶなら天馬先生の元がいい。
 そりゃあ大学でだって学ぶことは沢山あるだろうけど、優秀な外科医のメス捌きを間近で見たいなら、そんなの天馬先生一択だろう?
 それに俺は薬局の息子で、継がなきゃいけない病院も無い。好きな場所で好きなように働かせてもらうさ。


 そうして働き始めた『柊胃腸科病院』でも、やっぱり天馬先生はモテモテで、従業員のみならず、患者から……いや、患者以外からも熱い視線を集めていた。

 天馬先生目当てで連日待合室で『出待ち』する女子高生が現れた時は、自動ドアに貼り紙がされた。

『診察以外のお客様の出入りは診療の妨げになりますので、御遠慮願います』

 それでもやめずに調理実習で作ったクッキーなんかを手渡そうとするものだから、それまで適当にあしらっていた天馬先生がブチ切れた。

「お前ら、ここを何だと思ってるんだ!周りにいる病人が目に入らないのか!これ以上こういう事を続けるならお前らの学校に電話するぞっ!それに俺はガキに興味は無い!とっとと帰れ!」

 いい加減迷惑だと思っていた周囲の患者からは拍手が起こり、院内のファンをさらに増やす結果となった。
 もちろん俺も惚れ直した。


 それがまさかね……。
『クールなイケメン』
『難攻不落の高嶺の花』
『遊びでいいから一度抱いてほしい』

 そんな風に言われている超絶モテ男が、7つも歳下のあんなフンワリした子に夢中だなんて、誰も思わないだろ?
 しかも恋愛相談って……中高生の初恋かよっ!

 だけどきっと、これが天馬先生の初恋なんだ。
 本当の恋を知らずに適当に遊んでいた男が『本気の恋』を知って、彼女の一挙一動に戸惑って、どうしたらいいか分からずに狼狽えているんだ。

 普段どんな難関オペにも患者の急変にも動じない先生が、少年みたいに頬杖ついてニヤニヤしたり落ち込んだりしてるんだぜ。
 この前なんて、パソコンで『若い女性に人気のおすすめスイーツ』とか検索してるんだぜ。
 そんなの見てて、めちゃくちゃ楽しいに決まってる。

 そんなのさ、恋愛マスターの俺が手伝うしかないだろ? ここが俺の見せ場だろ?
 だからさ、こうやって呼び出されるのは嬉しいし、報酬なんかなくたって、いくらだって相談に乗るけどさ……。


「好きなのを頼めよ。極上ちらしか?」

 まあ、いただけるものはちゃっかりいただいておくのがマナーというものだろう。

「そうっスね。デザートにわらび餅も付けていいですか?」
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...