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<< 番外編 >>
フラグが立った日の話 (1)
しおりを挟む「ねえ朝哉、このナムルを食べてみて。味が薄いようなら醤油を足すから」
「分かった。あ~ん」
「はい、どうぞ召し上がれ。あ~ん」
「うん、美味っ!最高!」
グッと親指を立てたら、「朝哉は何でも美味しいって言ってくれちゃうから、味見役は駄目ね」とクスクス笑いながら言われた。
本当に美味しいからそう言ってるだけなのに、雛子は謙遜が過ぎる。
まあ実際、両面黒焦げの炭みたいになったハンバーグが出て来たとしても、笑顔で完食する自信はあるけれど……。
8月最終週の土曜日。
今日はニューヨークに来てから初めての来客……ヨーコと竹千代、そして兄の透を招待しての夕食会とあって、雛子は異様に張り切っている。
今回のメニューは『しいたけの海老しんじょう揚げ』に『紅茶煮豚の柚子だれ添え』、『茶碗蒸し』に『いなり寿司』と『カリフォルニアロール』、そして『ほうれん草のナムル』、『トマトと玉ねぎのサラダ』……と、随分頑張ったメニューとなっている。
わざわざ手料理を振る舞わなくてもケータリングで十分だと言ったのに、雛子は「お兄様に日本食を食べていただきたいから」と、和食中心のメニューを出すことにした。
兄は日本から来たばかりだし、別にまだ日本食は恋しくないんじゃないかな……と思ったけれど、雛子が自分の兄のために必死で考えてくれるのが嬉しくて、彼女が好きなようにさせることにした。
「ヒナ、俺は何をすればいい?」
「そうね……玉ねぎをスライサーで薄切りにして、水にさらしておいてくれる?」
「了解……。で、スライサーって?」
「ふふっ、そこの引き出しに入ってる白い……そう、それ。指を切らないように気を付けてね」
ニューヨークに来て、雛子と料理をする機会が増えた。これが殊のほか楽しい。
独身時代は一人暮らしをしていたから、パスタとかステーキとか簡単なものは作ってたけど、基本的には外食や出前、テイクアウトで済ませていた。
雛子と同棲、結婚しても、日本では忙しくて家にいる時間が少なかったし、料理を手伝う余裕も無かった。
ニューヨークに来てからもそれなりに忙しくはしているけれど、本格的に始動するのは明後日の月曜日からだから、この2週間程は一緒に買い物に出掛けたり料理をする時間があって、やっと新婚生活という雰囲気を味わえている。
雛子は「これから忙しくなるんだから、今のうちにのんびり休んでくれていいのよ」と言ってくれるけれど……自分が雛子にくっついていたいのだから仕方がない。
キッチンで隣に立って料理を手伝うのでさえ、癒しの時間なのだ。
「ありがとう。もう殆ど準備は出来たわ。あとは皆さんがいらしてから揚げ物をして……」
ピンポーーン
呼び出し音が鳴ってモニターを見ると、竹千代とヨーコが画面に揃って映っていた。すぐにボタンを押してエントランスのロックを解除する。
竹千代には何かあった時のためにこの部屋のカードキーを渡してあるからここまで勝手に入って来れるのに、無闇にそれをしないのが律義なアイツらしいな……と思う。
「ヒナコ~、会いたかったデス~!」
ドアを開けた途端、ヨーコが雛子に抱きついた。
「おいヨーコ、俺を素通りしてヒナに抱き付くってどういう事だよ。俺は透明人間か」
「ヒナコ~、トモヤが煩いです~。ヒナコのエプロン姿、カワイイデス~!」
「無視かっ!」
ヨーコは日本で雛子にBL好きをカムアウトして受け入れられたものだから、それ以降ますます本性を隠さなくなった。
雛子が腐の沼に引き摺り込まれそうで心配だ。
「ふふっ、ヨーコさん、私も会いたかった。今日はゆっくりして行ってね。……タケさんも、お久しぶりです。どうぞお入り下さい」
雛子は天使の笑顔で2人を招き入れると、ダイニングテーブルの椅子に座るよう促し、自分はキッチンへと向かう。揚げ物をするためだ。
「ヒナ、俺も手伝うよ」
「こっちは大丈夫だから、お客様にビールを出してくれる?」
雛子の隣にいたいけれど、本人にそう言われてしまえば仕方ない。冷蔵庫から冷えたビールを取り出して、栓を抜く。
ヨーコと竹千代のグラスに注いでいたところで再びエントランスの呼び出し音が鳴った。
「あっ、たぶん兄さんだな」
モニターを見ると、案の定兄の姿が映っていた。ロックを解除して、すぐにお迎えに出る。
このマンションは、上層階のペントハウス専用のエレベーターがあって、そのエレベーターを動かすのにもカードキーが必要なのだ。
エレベーターのドアが開くと、すぐそこに立っていた兄を乗せて、再び50階に舞い戻る。
「兄さん、いらっしゃい。来てくれて嬉しいよ」
兄とは5日前に空港にお迎えに行って会ったばかりだけれど、この家に来てもらうのは初めてだ。
雛子との生活空間を見られるのが嬉しいような照れ臭いような……だけどやっぱり嬉しい気持ちが勝っているかな。
LDKに案内すると、キッチンから顔を出した雛子、そして先に座っていたヨーコとタケに声を掛ける。
「ヒナ、兄さんを連れて来たよ。タケは勿論兄さんを知ってるし……ヨーコも日本で会ったことがあるよな?」
ヨーコがガタリと椅子から立ち上がり、ペコリと頭を下げる。
「ヨーコ・ホワイトと申しマス。日本では白石工業にお供した時にご挨拶させていただきマシタ」
急に澄ました秘書の顔になるのを見て、こういう風に咄嗟に猫を被れる変わり身の早さが凄いな……と尊敬しつつ、隣に立っている兄を見たら、何故か口をポカンと開けて惚けていた。
「……兄さん?」
声を掛けたらハッとしたように我にかえり、「えっ?……あっ、黒瀬透です。白石工業で一度お会いしていますね」と慌ててお辞儀を返した。
ーー兄さん、ヨーコに見惚れてたな。彼女は黙ってれば綺麗で落ち着いたお姉さん風だからな。
そう言えば、兄の好みの女性のタイプを知らないな。ヨーコみたいなのが好みなのかな?などと考えながら全員揃ったところでビールで乾杯し、夕食会がスタートした。
まさかそのあとで急転直下の展開が起こるとは思いもせずに……。
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