婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

田沢みん

文字の大きさ
60 / 83
裏 あしながおじさまは元婚約者でした

6年ぶりのキス side雛子

しおりを挟む

「朝哉と結ばれたことは、ただの一度も後悔したことなかった……」

 雛子が真っ直ぐに見つめると、湯気の向こう側でアーモンド型の瞳が驚きに見開かれた。

「朝哉は言ったわよね。全部覚えていて、結ばれたことを後悔しないで……って」

「言った。我ながら身勝手でひどい言葉だよな……だけど俺は……」

「私は後悔していないわ」
「ヒナ……」

「寮にいたときにね、処女が重いから早く経験しちゃいたいって子が結構いたのよ」

 突然変わった話題に、朝哉が「えっ」という表情を浮かべる。

 けれど雛子は構わず話を続けた。
 高校や大学で、早く処女を捨てたいからとたいして好きでもない人と付き合ったり、二十歳前に駆けこみで彼氏を作って経験してすぐに別れて……という子達を見てきたのだと。


「よかった、私は違う……って思ったの」

 自分はちゃんと好きな人と結ばれた。
 焦ったわけでも流されたわけでもない。
 心から愛して、そうなりたいと思える人と結ばれた。

「あの瞬間の私は、確かにしあわせだったんだわ。だって一生でただ一度のはじめてを、大好きな人に捧げることが出来たんですもの。たとえそのあとで悲しい別れが待っていたとしても……誰がなんと言おうと、私は世界一……しあわせだったの……」

 神妙にうつむいて聞き入っていた朝哉は、雛子の声の震えに気づいて顔を上げた。

「ヒナ……」

「悔しいけれど、あなたに言われた通りになっちゃったわ……憎んでも恨んでも、それでもやっぱり好きだなんて……」

「ごめん、ヒナ……本当にごめんな。それでも俺は……ヒナの言葉が嬉しくて仕方ない……」

 朝哉がスッと立ち上がり、雛子に向かって正座した。
 雛子も朝哉にならい、掘りごたつから足を出して正座する。膝を突き合わせると視線が重なった。

「抱きしめても……いいかな」
「今朝は勝手に抱き締めたくせに」
「もう嫌われたくないんだ」

――ズルい……どんなにされてもあなたを嫌いになれないって知ってるくせに。

 雛子が泣き笑いの顔でうなずくと、朝哉が膝立ちで畳を進み、目の前で止まる。そっと腕を背中にまわしてきた。
 嫌われたくないと言ってたくせに、抱きしめる力は痛いほど強く、遠慮がない。

「ヒナ……ヒナ……っ!」

 耳元でうわ言のように名前を囁かれ、身体の力が抜けていく。
 髪に差し込まれた長い指が地肌に触れるたびに、身体の奥から甘い疼きが迫り上がる。

――ああ、私はずっと、こうされたかったんだわ。


「ヒナ……今、俺、めちゃくちゃキスしたいんだけど……駄目かな」

 耳朶に唇を押し付けながら、吐息と共に余裕のない声で問いかけられる。

――ほら、やっぱりズルい。

「……駄目って言ったらめるの?」

 朝哉は顔を離して雛子の瞳をのぞきこむと、参ったというようにクシャッと表情を崩した。

「ふっ……いや、止められないな」

 見つめあい、同時にクスッと笑う。雛子の額に、目蓋に、そして頬に啄むように口づけて……

「ヒナ……愛してる」

 最初はそっと触れるだけ。そして一旦離れてもう一度重なったそれは、6年分の想いを注ぎ込むように、深くて熱くて情熱的だった。

「は……ヒナ……っ…」

 口づけの合間に名前を呼ばれ、また口づけられる。
 徐々に強くなる腕の力と唇の圧力。
 水っぽい音と共に舌を絡め取られ、逃げることを許されない。

――もう逃げるつもりも無いけれど……

 あんなに憎んでいたはずなのに、その裏側にある本音を言葉にしてしまうと、もう自分の気持ちを誤魔化すことなど出来なかった。

 好き……。ずっと彼のことが好きだった。

 忘れたことなんてなかった。忘れたくても忘れられなかった。
 苦しくても憎くても、それでも記憶から消したくなんてなかった。
 

 そして朝哉も雛子を忘れてなんかいなかったのだ。
 それどころか雛子のために自分の将来を捧げ、6年間を費やしていた。
 今また目の前に現れた彼は、従者のように雛子に許しを乞い、王子様のように愛の言葉を囁いている。

 忘れなくて良かった……。

 切なさと喜びと感動と……様々な感情が入り乱れる中で、胸を突き上げてくる強い想い。

「朝哉……好き……」

 消え入りそうなほど小さな呟きは、涙の粒と共にポロリとこぼれ出た。

しおりを挟む
感想 398

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。