婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

田沢みん

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裏 あしながおじさまは元婚約者でした

白石工業 2

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 白石工業は医療機器の開発及び製造、販売を行う、白石メディカの子会社だ。会社は埼玉県川越市の工業地帯にあり、開発センターと併設された工場などを合わせると従業員600名ほどの精密機器メーカーである。

 白石メディカの前身であり基盤でもあることから雛子の思い入れも強く、叔父の大介から会社に多額の負債があると聞かされた時には、朝哉に泣きついたことを覚えている。


ーー後でクインパスに買収されたと知った時には裏切られたと思っていたけれど……。

 そこに今こうして向かっているということは、雛子に見せたい何かがあるのだろう。
 それが良いか悪いかは別として、その後の会社の様子を知ることができるのだ。

 雛子は不安と期待が入り混じった目で朝哉を見つめた。
 朝哉は車に乗ってからずっと雛子の手を握りしめたままだ。

「ヒナはさ、俺のことを嘘つきだって……裏切り者だって思ってるよな」

 ボソリと呟くように聞かれて雛子は言葉に詰まった。
 確かにその通り、会社がM&Aによって乗っ取られたと聞いてからは、長い間ずっと、朝哉とクインパスを恨んでいた。
 正直いうと白石工業に関しては、今でも裏切られたという気持ちが完全に無くなったわけではない。

 だけど……。

ーー朝哉の婚約破棄にちゃんとした理由があったように、買収にも何か意味があるとしたら?

 時宗はたしか、白石メディカは経営破綻寸前だったと言っていた。倒産寸前だった会社を買収して、クインパスに利はあったのだろうか……。


「確かに裏切られたって、そう思ってた。ついさっきまでは……。だけど、今はまず自分の目で真実を確かめたうえで判断したいって思うの」

「うん……ヒナの目で見て判断して。クインパスが会社を吸収した時点で、ヒナが望んでいた形とは違っちゃったわけだから……多かれ少なかれ不満はあると思うんだ」

 本当はこんなふうに一気にバラすんじゃなくて、徐々に段階を追って伝えようと思ってたんだけど……と、朝哉は不安げな顔をした。


ーーたぶん、きっと大丈夫。

 朝哉は雛子のために動いている。
 だから会社のことだって、悪いようにはなっていないはず……
 確信はないけれど、なんとなくそんな気がする。

 だから雛子は「大丈夫だよ」と伝えたくて、朝哉の手をギュッと力強く握り返した。



 新宿から工場のある埼玉県川越市までは、首都高速を使って約1時間。
 製造工場に隣接した研究開発センターの駐車場に車が停まると、すぐに建物の中から2名の男性が飛びだして来た。

 1人は雛子が良く知っている中年男性、もう1人はもっと若くてひょろっとした、眼鏡をかけている見知らぬ男性だ。

「朝哉、お帰り。1年ぶりだな」
「うん、兄さん、久しぶり」

――えっ、お兄さん!?

 ということは、この眼鏡の男性が朝哉の兄のとおるで、本来ならクインパスの後継者になるはずだった人……。

 朝哉は驚いている雛子を振り返ると、透が自分の兄で、研究開発センターのセンター長をしているのだと教えてくれた。

「兄さん、彼女が俺の雛子」
「うん、父さんから聞いてる。今度はちゃんと結婚するんだろうな」
「うん、するよ……なっ?」

 急に同意を求められて、雛子は面食らう。

「えっ、あっ、たぶん……はい」
「ちぇっ、『たぶん』かよ」

 不満そうに唇を尖らせる朝哉を見てハハッと笑いながら、透が右手を差し出して来た。

「やっとお会いできましたね。あなたのおかげで私はメンドクサイお役目から逃れて好きな仕事に就くことができました。どうもありがとう」

「えっ? あっ……はい」

 よくわからないままに手を握り返すと、ニコッと優しく微笑みかけられる。
 朝哉よりも柔和にゅうわな顔立ちをしているけれど、目尻にシワが寄る笑顔は朝哉に似ているな……と思った。


「ヒナ、そしてこちらは君も知ってると思うけど……」
「はい……村上さん、お久しぶりです」

 目の前に立っているのは、亡き父、宗介の右腕として一緒に会社を支えてくれていた人物。
 大介の代になって解雇されたと聞いていたけれど……。


「雛子さん、ご無沙汰しておりました。すっかり美しい娘さんになられて……天国の社長もさぞかし……ううっ……」

 両手で雛子の右手を握りしめて男泣きに泣いている村上の肩を、朝哉がポンと叩く。

「村上さん、俺が不甲斐ないせいで長い間待たせてしまったけれど……やっと彼女を連れてくることができました。これもあなたのおかげです。ありがとう」

 久し振りに積もる話もあるだろうから……と雛子を残し、朝哉は透と連れ立って建物の中に入っていってしまった。
 村上は朝哉の背中を見送りながら、しみじみと呟く。

「彼は我々従業員と会社の恩人です。雛子さんは本当に立派な方と出逢われましたね」

「恩人……なんですか?」
「はい……大恩人です」

 ――やはり白石メディカのM&Aには私が知らなかった理由があるんだわ。

 戸惑う雛子に向かって村上はゆっくりと笑顔でうなずいてみせた。

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