婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

田沢みん

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裏 あしながおじさまは元婚約者でした

彼の婚約者は…… side麗良

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「白石さん、お客様が並んでるからレジに入って」
「はいはい」

――ちぇっ、裏の仕事のほうがサボれていいのに。

 ブツクサ文句を言いながら、麗良うららは冷蔵ショーケースの裏から出てレジに向かう。


 麗良がこのコンビニで働きだしてから1ヶ月。
 どうにかして朝哉に会えないものかと何度かクインパスビルの前まで行ってみたものの、残念ながらまったく成果はない。

 それどころか警備員に目をつけられて、今では麗良の姿を見かけただけで目つきを鋭くして警戒を強められる有様だ。


『あなたみたいに恋人や知人を語って専務に会おうとするファンは多いんだよ』

 それが最初にクインパスビルを訪れた時に警備員から投げつけられた言葉だ。
 いくら本当の婚約者だと言っても、『だったらアポがあるはずでしょ。ここに入りたいならせめて社員カードを持ってなきゃ』
 そう言って、けんもほろろに追い返されてしまった。


――くっそ~、朝哉様に会えさえすれば嘘じゃないって判明するのに。

 爪をガジガジ噛みながら考えていると、

「ちょっと、早くしてくれない?」

 目の前の客から文句を言われてしまった。

――なんでこんなブサイクなオバさんに文句を言われなきゃいけないんだ!

 私はクインパスグループの社長夫人になる女なのに。
 おまえたちに頭を下げられる上流階級の人間なのに。

――いつかここの店長もおまえらもみんな、土下座させてやる!

 麗良はそんなことを考えながら、無愛想に商品を袋に入れた。



『えっ、また専務の写真を拡大コピーするの?』
『もちろん!』

 コピー機のほうから『専務』という単語が聞こえてドキッとした。
 
 彼女達は前にも一度社内報のコピーをしていた、常連のクインパス社員だ。
 あの時に彼女が忘れた社内報は麗良がこっそり持ち帰っている。

 今は漫画喫茶やネカフェ暮らしだから朝哉様の記事を壁に貼ることはできないけれど、いずれ新聞記事の白黒写真などではなく本物に会えるはずだ。

――きっとあと少し……もう少しの辛抱だ。


 お客様の応対をしながらも、耳は必死に彼女たちの会話を拾う。

『専務は婚約しちゃったっていうのに、そんなのコピーしてどうするのよ』

『だから専務は観賞用だって言ってるでしょ。アイドルの追っかけみたいなもんだってば』


――婚約!?

 とうとう朝哉は麗良という婚約者の存在を公に発表したのか。
 だったら麗良に一言そう言ってくれたっていいのに……。

――だったら婚約披露のパーティーがあるわね。

 それではなおさら早く朝哉に会わなければ。
 パーティーのドレスは朝哉と一緒に選びたいし、他にも打ち合わせが必要だろう。


 その時、彼女達が聞き捨てならない言葉を発した。

『それにしても、広報も思い切ったことをしたわね。専務の婚約発表で号外を出しちゃうなんて』

『違うのよ。広報の子に聞いたんだけどね、専務から記事の訂正をお願いされたんだって』
『どういうこと?』

『その子が前回の専務のインタビューを担当してたんだけどね、たまたま廊下で専務と会った時に呼び止められて……』
『何って?』

『例の彼女だけど、先日結納を交わして、恋人じゃなくて婚約者になったんだ。嘘をついたわけじゃないけど、記事の内容と事実が変わっちゃってゴメンね……ってウインクされたって』

『キャーッ! 専務のウインク! 私も見たかった~!』
『そんなの私だって拝みたいよ。専務がすっごく幸せそうに微笑んでて見惚れちゃった……って言ってたし』

『微笑んでウインク……殺傷能力高そうだわ。間近で見たら心臓止まる』
『だよね~、婚約者が羨ましい~!』


――んっ、結納? そんなのまだなのに、朝哉様、何か勘違いしてる?

 2人組がサンドイッチと飲み物を持ってレジに並ぶ。
 彼女達が目の前に来たところで、麗良は思いきって聞いてみた。

「あの……朝哉様が結納したって自分で言ってたんですか?」

「えっ?……ああ、はい……あなたも専務ファン?」

「ファンじゃなくて、婚約者なんですけど……」

 2人は麗良を可哀想な子を見る目でまじまじと観察すると、手に持っていた社内報の号外をカウンターに置く。

「これ……あげるわ。私はまた会社で貰えばいいし」

 そう言ってそそくさと帰っていった。


 客の波が引いてから、休憩時間に先ほどの号外を開いて見る。
 キッチリしたスーツ姿で微笑んでいる朝哉の写真。相変わらずカッコイイ。

――私の王子様……。

 ニンマリしながら、記事を読み進める。


------------------------------------
 << 号外!>>

 今月は特別!
 我らが王子様、黒瀬朝哉専務、婚約おめでとう特集号です。


Q: このたびは婚約おめでとうございます。女性社員を代表して言わせてください。ショックですけど、我々は専務ファンとして応援します!

A: ハハッ、私はアイドルではないので騒がれるのは本意じゃないのですが……でも、祝福していただきありがとうございます。

Q: 婚約者についてお聞きしてもよろしいですか?

A: はい。前白石メディカCEOであった、故、白石宗介氏の御息女であり、今はクインパス会長の秘書を務めている白石雛子さんと、このたび婚約させていただきました。

Q: 白石メディカといえば6年前に我が社の子会社となり、心臓カテーテルの開発販売部門で推進力となっている会社ですよね。

A: はい。じつは彼女とは7年近く前にパーティーで出会っていたんです。その時に私が一目惚れして積極的にアプローチし、交際させていただいていました。その後、私が見識を深めるために海外留学し、クインパスで修行を積んでいる間もずっと支えて貰って……今回専務になったきっかけでプロポーズして、受け入れていただけた次第です。

Q: 7年越しですか! パーティーで見初めるなんて、まるでシンデレラストーリーですね!

A: シンデレラというか……私が追いかけ続けてようやく手に入れたという感じですね。

Q: ベタ惚れですね!

A: ハハッ……はい、ベタ惚れです。夢中です。
ですが私がしっかり仕事をしないと彼女に叱られてしまうので、これで浮かれることなく、今まで以上に仕事に邁進する所存です。
そして彼女は目立つのが好きではありませんし、芸能人でもないので、温かく見守っていただければと思います。

Q: はい! 専務ファンとして今後も応援させていただきます!

A: ありがとうございます。よろしくお願いします。


 終始笑顔で幸せオーラに溢れていた黒瀬専務。
 お話を伺っていたこちらまで幸せのお裾分けをいただいた気分になってしまいました。

 結婚式は来春を予定しているとか。
 広報部の女性社員の間では既に『専務ロス』が蔓延中ですが、今後も我々は、いちファンとしても広報としても追いかけていきたいと思います!

------------------------------------


「……なんだって!?」

 白石雛子……憎くて憎くてたまらないその名前に、カッと頭に血が昇る。

――昔からいつも人を見下して偉そうにしていたあの女が……朝哉様の婚約者だっていうの!?

 やっぱりそうだ……6年前に朝哉様との婚約を妨害したのもコイツだったに違いない。
 第一、前白石メディカCEOは宗介じゃなくて私の父親の大介だよ! 私が白石メディカ御令嬢だったんだ!

「雛子~~! 許さん!」

 許せない許せない許せない許せない……!
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……!


 その場で急いで電話をかけると、1ヶ月ぶりの母親の声。

「ママ?……私がどこにいたっていいでしょ、元気にしてるわよ。あの引き籠り野郎はどうしてる? すぐに代わって。雛子のことだって言えばドアを開けるでしょ」

 電話の向こうでやり取りしてる声がして、しばらくすると久しぶりに聞くアイツの声。

『雛子ちゃんがどうしたの?』

「お兄ちゃん、雛子が結婚するよ」

『えっ、雛子ちゃんが……』

 電話の向こうから悲愴ひそうな呟きが聞こえてくる。

――やっぱりまだ雛子に未練たらたらか。他に相手してくれる女がいないからな。

「借金のカタに仕方なくだよ。雛子はまだお兄ちゃんのことが好きなんだよ。助けてあげなきゃ!」

『借金のカタ……仕方なく……』

「そうだよ、雛子はお兄ちゃんを待ってるんだよ。早く助けに来てあげて!」

『雛子ちゃん……雛子ちゃんは、僕が守る!』


 電話を切って麗良はほくそ笑む。

「馬鹿とハサミは使いよう~♪」

――妨害してやる。

 絶対に結婚なんてさせない。アイツだけ幸せになんてさせるものか。

 麗良は賞味期限ギリギリで安売りになっていたアンパンをパクつきながら、脳内でめまぐるしく作戦を練るのだった。
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