きみとの距離

ぺっこ

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花壇の側で

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「それじゃあ行ってきまーす!」

最近私の朝は早い。

うーん、今日はいい天気だ!
春の暖かな日差しを浴びながら、私は大きく深呼吸した。

実は私、1週間前から校庭の隣にある花壇の水やりをしている。

事の発端はこの前の委員会だった。
私は今回美化委員に所属している。そこで、担当の先生がこんなことを言っていた。

「えー、3日前に用務員の水谷さんが階段から滑って足を骨折されました。そこで、しばらくお休みを取られるのですが、美化委員から誰か花壇の水やりをしてくれる人はいないかしら?」

復帰していて花壇が枯れていたら水谷さんが悲しまれるわ。
眉を下げて悲しそうな表情をする先生に私も悲しくなる。

いつもにこにことして優しく挨拶してくれる用務員さんを思い出す。
…結構高齢だったよね?大丈夫かな…

辺りを見渡すと、みんな下を見たり、気まずそうにしたりしていて誰も手を挙げようとしない。

確かに面倒かもしれないけど…
毎日美しい花を咲かせている花壇を思い出す。
水谷さんの悲しい顔は見たくないなあ。

と、私が手を挙げたので花の水やりを担当することになった。

日中は日が照って水があたたかくなってしまうから、それ以外でお願い。ありがとう。

と先生に言われ、私はそれなら、と朝水やりをすることにした。

幸い早起きは好きだし、人通りの少ない静かな時間もとってもいい。

この時間なら通勤ラッシュじゃないし、と私はがらんとした電車に乗り込む。

今日は漢字の小テストがあったな。私はカバンの中から単語帳を取り出し、勉強を始める。

私は毎年うちの高校にきている近所の女子大の指定校推薦を狙っている。

だから、内申を出来るだけ上げとかないと。
出来る時に集中して…

そう思い漢字を覚えているとすぐに高校の最寄り駅に着いた。

そこから歩いて10分。
見慣れた校舎が見えてくる。



「おはようお花ちゃんたちー!」

私は早速ジョウロに水を入れて花壇へと向かう。
花に話しかけるのは私の恒例行事だ。だって愛情を注げば注ぐほど綺麗に咲くってこの前テレビでやってたから。

思い返せばいつも綺麗な花が咲き乱れているここに、もう花壇というより庭と言った方が正しいが、どれほど水谷さんの愛が注がれていたかが分かる。

私の役目はとっても綺麗に咲いているお花と一緒に水谷さんを迎えることだ。

「君たちはいつも元気でいいねー!」

まっすぐと伸びる色とりどりのチューリップに声をかける。

「おっ!かすみ草が咲きかけだ!」
「んー、どうしたポピーちゃん、元気ないなあ…」

ここのお世話を始めてから咲いている花は何なのか興味を持った。
そして、調べていくうちに大体の種類を覚えてしまった。

将来はお花博士にでもなろうかしら?

「よしっ、ポピーちゃん、君には特別に高級なご飯をあげよう。」

と高級なご飯という名の肥料をかかげる。

あー、お花って本当に癒される。
側からみたら大きな声で独り言を言っている怪しい人になるだろうけど、気にしない。

まあでも、知り合いに見られたらとても恥ずかしいけど。

「おいしい?いいねー!」

「私もね、今日のお昼ハンバーグなの!今から楽しみ~!」

あー、お腹空いたなあ…
と花たちに話しかけていると、

「ふふっ」

後ろからじゃりを踏む音と共に、微かな笑い声が聞こえてきた。

「っ」

見られた?誰かに見られた!?

恐る恐る振り返った私は、そこにいる人物を見て、人生の終わりを感じた。

「おはよう津島!」

そこには爽やかな笑みを浮かべたジャージー姿の七瀬くんがいた。

「な、七瀬くん…」

この1週間、会ったことがなかったのに、なぜここに…?

「ここ、綺麗だよな!いつも津島が育ててくれてるの?」

そう言って藤の花に顔を近づけ、匂いをかぐ七瀬くんはとても様になっている。

「ううん、用務員の水谷さんがね、骨折してしばらくこれないからその代わりで。」

美化委員だからと言うと、七瀬くんは優しく笑った。

「津島がいっぱい話しかけてくれるから、みんなきっと嬉しいよ。」

なんて優しい…でも

「七瀬くん、さっきちょっと笑ってたよね?」

恥ずかしさから、つい声が小さくなってしまうと、

「ごめんごめん!津島がそういうことするって想像できなかったからさ。」

とおかしそうに笑う七瀬くん。

「あの、花に話しかけたらよく育つってテレビで見たから…」

「ははっ!津島って素直なんだな。」

今褒められた?私七瀬くんに褒められた!?
思わずにやけそうな頬をおさえて話しかける。

「七瀬くんは部活?」

「そうそう、朝練!朝は自由にメニュー組めるからいつも筋トレとシュート練してるんだけど、今日は走ろうと思って。」

ああ、だから今日はここを通ったのか。
私は七瀬くんの言葉に頷いた。

「そう言えば、頭はもう痛くない?」

七瀬くんから唐突にそう尋ねられ、私は首をかしげる。
はて、頭…

「あの、体育の時…」

すると七瀬くんはまたふふっと笑いながらそう言った。

ああ!あの時の!もう3日たったからね、すっかり忘れてた!

「あっ!うん!もうね、その日のうちに治ったよ!」

ぶんぶんを首を縦にふり、元気よくそう答えると、七瀬くんは堪え切れないとでもいうようにふき出した。

「ふはっ!そっかそっか!それはよかった!」

津島って、やっぱり面白いなあ!
そう言ってけらけらと笑い続ける七瀬くん。

それじゃ、また教室で!

笑いが収まった七瀬くんはそう言うと爽やかに走って行ってしまった。

あーあ。行ってしまった。
時間にすると、5分程度だっただろうか?
それでも自分から彼に話しかけることのできない私にとって、本当に素敵な時間だった。

私は自然と浮かぶ笑みと共に去っていく後ろ姿に手を振りながら、思いっきり笑う七瀬くんの笑顔に、1年前、恋に落ちた時のことを思い出した。
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