煉獄の歌 

文月 沙織

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 敬は二人の黒服によって、両腕を取られ、客たちに向かいあうようにして立たされてしまう。
「ご覧ください、この白い肌。ちょっと桃色がかった乳首」
 司会者の男が、鞭を手にし、その漆黒の先端で敬の敏感な胸の突起をつつく。
「うっ……」
 敬は衆目のなか、あられもない姿を強いられる悔しさに、目に涙を浮かべた。
「まだちょっと子どもっぽいですが、胸といい、腹といい、脚といい、なかなか逞しく立派な身体です」
 鞭先が、今度は敬の顎をつつく。 
 まるで映画か小説の世界の奴隷市場のような異常な光景が繰り広げられていく。
 敬は気が遠くなりそうになった。
「坊や、お名前は?」
 唇を噛んだ。死んでも言うものか、と思う。
「どうやらこのワンちゃんは、口が聞けないようなので、代わりにあたしが言いましょう」
 ぎくり、とした敬はつい懇願を込めて司会者を見てしまった。
(止めろ、止めてくれ!)
 夢中で首を振ったが、男は無情だった。
「ワンちゃんのお名前は、安賀敬。歳は十九歳。先代安賀組組長の次男」
 ひそかに、客たちの溜息が聞こえる。
 安賀組組長が殺害された事件はひととき世間を騒がせ、安賀組の美貌の次男の名は一部では有名だ。
 世に知られた侠客の家の息子が、あろうことか男娼として惨めな姿を強いられているのだ。加虐嗜好の観客たちにとっては、これほど面白い趣向もないだろう。
(畜生!)
 敬はつかまれた状態で両手を握りしめていた。
 面子めんつが命の世界で生きてきた敬にとって、今のこの不様な姿を知られることは魂を削り取られるほどに辛かった。
 敬は屈辱に目を閉じたが。閉じた目から涙がこぼれるのはこらえきれない。
「あらあら、ワンちゃんはもう泣いてしまっています。今から泣いちゃうようじゃ、これからどうするんでしょうね?」
 卑しい揶揄やゆ。響く嘲笑。敬は挫けそうな気骨をふるいたたせ、歯を食いしばった。
「では、紹介がすんだところで、そろそろ、御開帳ごかいちょうと行きましょうか?」
「ひっ!」
 白い下着の布越しに、鞭先が敬の身体の中心をつつく。
「いっ……! や、やめろ!」
 場を盛りあげるために流された淫らな音楽が、状況をいっそう劇的に見せていく。
 敬の肉体を照らす照明の明かりが、泥のうずまく海底にねっとりと落ちてきた琥珀色の蜜のように、若い五体にからみつく。
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