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花、開くまで 三
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信じられないようなおぞましいことをあっさり言うアーミナを、アベルはありったけの怒りを込めて睨みつけたが、相手はどこ吹く風と、視線の刃を受けながした。
「これなんかどう、伯爵? 黒だからそんなに嫌じゃないでしょう? それとも白がいい? 桃色のも可愛いな。伯爵に似合いそう。この飾り紐がなんだか色っぽいし」
エリスが素の口調になって、たのしげに布の山をさぐっては、お宝を見つけるように爛々と目を輝かせている。宦官というものがそういう嗜好なのか、彼自身の生まれつきの嗜好なのか、アベルはエリスという人間が、ふとおぞましくなってきた。
自分をこんな目に遭わせて連日もてあそぶ三人の少年宦官たちは、アベルにとっては皆恨めしく憎らしい存在で、なかでも尊大な態度を取るアーミナが今までは一番許せなかったが、それと同じぐらい、いや、それ以上にエリスのことが憎らしく疎ましくなった。
男でありながら男の象徴を失くし、感性も体躯も女性化を示し、女のように女物の下着を前にして目を輝かせている異形の生き物が、たまらなく憎くなったのだ。
宦官というわけではないが、帝国にも確かに似たような人間はいると聞く。男でありながら男の欲望のはけ口となる者。それを生業とする者もいるとは聞く。だが、そういった人種は、帝国では唾棄されるべき存在であり、まともな人々の軽蔑と嘲笑の的にされるべき存在である。
エリスを見ていると、アベルは嘔吐をもよおしそうになってくる。
普通のときなら、もしかすればエリスのような身の上の人間に同情を抱いたかもしれないが、今のアベルは同情よりも、彼に対して侮蔑と生理的嫌悪をつよく感じてしまうのだ。
それは、おそらく、連日の調教のせいで、肉体を弄られ、受け身の悦びを得るべく器物で秘部を馴らされつづけているうちに、アベル自身が自分では絶対認めたくない、いや、死んでも認めるわけにはいかない、己のなかに秘めた〝内なる女〟を、彼らによって無理やり引きずり出されつつあることを自覚しているからだろう。
(私は……私の身体はどうなってしまうのだ?)
昨日の悪夢のようなあの体験。
思い出すだけでアベルは気を失いそうになる。
あろうことか、異教徒の宦官たちや敵王の妾――アベルの国では正妻以外は愛人、公妾である――の手によって耐えがたい恥辱を受け、あげく、信じらないことにアベルの肉体は反応してしまったのだ。
思い出してしまうと、顔が痛いほどに熱くなる。
卵を呑まされたときに情を放ってしまったことは……それも恥ではあったが、まだ耐えられる。それは異物挿入という行為や、卵という道具によって無理強いに引き起こされた生理反応のようなものだからだ。
だが……アベルはつい目を伏せていた。
憎悪する女の下着を纏わせられるという下劣ないたぶりを受けて、鏡の前に立たされたとき、間違いなく己の若い肉体は燃えていたのだ。
(私は……このままどうなってしまうのだ?)
「これなんかどう、伯爵? 黒だからそんなに嫌じゃないでしょう? それとも白がいい? 桃色のも可愛いな。伯爵に似合いそう。この飾り紐がなんだか色っぽいし」
エリスが素の口調になって、たのしげに布の山をさぐっては、お宝を見つけるように爛々と目を輝かせている。宦官というものがそういう嗜好なのか、彼自身の生まれつきの嗜好なのか、アベルはエリスという人間が、ふとおぞましくなってきた。
自分をこんな目に遭わせて連日もてあそぶ三人の少年宦官たちは、アベルにとっては皆恨めしく憎らしい存在で、なかでも尊大な態度を取るアーミナが今までは一番許せなかったが、それと同じぐらい、いや、それ以上にエリスのことが憎らしく疎ましくなった。
男でありながら男の象徴を失くし、感性も体躯も女性化を示し、女のように女物の下着を前にして目を輝かせている異形の生き物が、たまらなく憎くなったのだ。
宦官というわけではないが、帝国にも確かに似たような人間はいると聞く。男でありながら男の欲望のはけ口となる者。それを生業とする者もいるとは聞く。だが、そういった人種は、帝国では唾棄されるべき存在であり、まともな人々の軽蔑と嘲笑の的にされるべき存在である。
エリスを見ていると、アベルは嘔吐をもよおしそうになってくる。
普通のときなら、もしかすればエリスのような身の上の人間に同情を抱いたかもしれないが、今のアベルは同情よりも、彼に対して侮蔑と生理的嫌悪をつよく感じてしまうのだ。
それは、おそらく、連日の調教のせいで、肉体を弄られ、受け身の悦びを得るべく器物で秘部を馴らされつづけているうちに、アベル自身が自分では絶対認めたくない、いや、死んでも認めるわけにはいかない、己のなかに秘めた〝内なる女〟を、彼らによって無理やり引きずり出されつつあることを自覚しているからだろう。
(私は……私の身体はどうなってしまうのだ?)
昨日の悪夢のようなあの体験。
思い出すだけでアベルは気を失いそうになる。
あろうことか、異教徒の宦官たちや敵王の妾――アベルの国では正妻以外は愛人、公妾である――の手によって耐えがたい恥辱を受け、あげく、信じらないことにアベルの肉体は反応してしまったのだ。
思い出してしまうと、顔が痛いほどに熱くなる。
卵を呑まされたときに情を放ってしまったことは……それも恥ではあったが、まだ耐えられる。それは異物挿入という行為や、卵という道具によって無理強いに引き起こされた生理反応のようなものだからだ。
だが……アベルはつい目を伏せていた。
憎悪する女の下着を纏わせられるという下劣ないたぶりを受けて、鏡の前に立たされたとき、間違いなく己の若い肉体は燃えていたのだ。
(私は……このままどうなってしまうのだ?)
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