黄金郷の夢

文月 沙織

文字の大きさ
91 / 150

時、満ちて 一

しおりを挟む
「うっ、ううっ!」
 カイが室に入ると、押し殺したような声が聞こえてきた。
「ほら! またこぼしているわ、もっと締めるのよ!」
 アルベニス伯爵は腰布だけを身につけたほぼ全裸で、四つん這いで尻をあげるという惨めな恰好をさらし、その両手、両足首は鉄鎖でいましめられている。見た目にはひどく残酷で官能的な姿だ。石床の上に真紅の天鵞絨ビロードを敷いているのは、エリスのせめてもの気づかいだろう。
 カイが進むと、少し下がったところで控えていたアイーシャの専用宦官ジャムズが一礼し、その隣ではサライアが頬を赤くして細い目を好奇心と欲望に燃やして、アベルのあられもない姿を熱心に見ている。その淫欲に燃えた女の浅ましい姿をカイは内心軽蔑した。
 この女は、今見ていることをまた朋輩たちに吹聴し、それを聞いた女たちは他の侍女や下女、宦官たちに話の内容を伝えるだろう。そして今宵もまた、宮殿、後宮じゅうの者たちが、眠りにつくまえ、アベルの惨めな姿を想像し、淫らな夢を見るのだ。なかには自慰にふけって、想像のなかでアベルを犯し、汚す者もいるにちがいない。アベルにとっては悲惨きわまりない。
 だが、見方を変えれば、グラリオン宮殿は今、アベル=アルベニス伯爵というひとりの異国の青年貴族に振りまわされ、夢中にさせられているともいえる。国王も、カイも……。
 カイは気を引きしめなおして、アベルの様子を観察した。白絹のようなアベルの肌の、頬と布をまくりあげられ剝きだしにされた臀部だけが、ほんのり薄紅に燃えている。
「ほら! またこぼしているわ!」
 ぴしゃり、とアイーシャの手が鞭となってアベルの尻を打つ。
「くぅ……!」
 悔しげにアベルが歯軋りしているのがわかる。責め役をアイーシャにゆずって壁際でのんびりと見物していたアーミナが寄ってきて囁いた。
「中に香油を入れられているんだよ。で、それをこぼさないようにって」
 だが、慣れていないアベルはついこぼしてしまうようで、その度にアイーシャに打たれているようだ。
「ほら、こういうときはどう言うの? 教えたでしょう」
「うう……!」
 閉じたアベルの目尻が光っている。かなり涙腺が弱くなってきているようだ。それでもアベルは首を振って拒絶と否定を示し、それがまたアイーシャの勘気を引き起こす。
「申し訳ございません、お許しください、でしょう? ほら、言うのよ!」
 尚も首を振るアベル。つづく打擲ちょうちゃくの音。
「アイーシャ様、あまり強く打たないでください。伯爵は陛下のものです」
 エリスが眉をしかめて小声でたしなめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

処理中です...