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最後の一日 五
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目を閉じてはいても、自分の頬が汗ではないもののに濡れるのは感じられ、アベルはいっそう辛くなって身震いした。
「……大丈夫じゃ。怯えるな、恥じるな。ただ、与えられる快楽をぞんぶんに受け取れば良いのじゃ」
囁いた男は、それからそっと頬に口を付けてきて、アベルの涙を吸いとった。
「い、いやだ……、もう許して」
弱音を吐かずにはいられないアベルに、王はさらに宥めるような言葉を向けてきた。
「媚薬が効いておるから、辛くはないじゃろう? ん?」
言うや、王はアベルの肩に顔をうずめた。恋人同士のような仕草にアベルは戸惑ったが、それよりも、言われた言葉が気になる。
訝しむアベルに王は莞爾と笑った。
「そうじゃ。あれは毒ではなく、媚薬だ。花嫁が初夜の晩をたのしめるためにな」
「なっ……」
無意識でアベルは周囲を見回し、カッサンドラをさがしていた。
たどり着いた目線の先のカッサンドラは、微笑している。残酷な女神のように、美しい魔女のように。
(そんな……! まさか、そんな……)
騙されていたことを受け入れられないでいるアベルに、王は悪魔のように囁いた。
「あれは一種の護符のようなものじゃ。そなたが絶望のあまり自害したり発狂したりせぬようにな。希望がある限り人は諦めぬものじゃ」
ディオ王は指先でアベルの紅い突起をつまみあげる。
「そ、そんな……」
アベルは呻かずにいられない。
頭上で滑車のきしむ音が、まるで夢の世界のことのように遠く聞こえる。
「カッサンドラを恨むでない。あれは余の命に従ったまでじゃ。そなたに希望を与え、生かしつづけるためにな。じゃが、もう大丈夫じゃ。そなたはもはや自害する気もなければ、狂うこともない」
「な、なぜ……!」
言っているあいだにも、上から、鎖が落ちてくる。鎖の先には、黄金の輪がある。以前に見たものと同じ、高価な拘束具だ。
その黄金の拷問具がアベルの両手首に触れる。
アベルは両手を大きく広げるかたちで頭上で手を拘束され、両脚を左右から王とエゴイにささえられる羽目になった。
「ううううっ!」
王の指が、蕾をまさぐり、慎重な手つきで、馬上の道具へと導く。
「はぁ……!」
はしたなくも漏らしてしまったアベルの先走りを、潤滑油がわりに道具にこすりつける。王みずからの念の入った準備だ。
「愛い奴じゃ。これから、毎夜、余がこうしてすべてをしてやるからの」
悔しげに、不自由な体勢で身もだえするアベルの様子はまさに一幅の絵だ。煽情的な猥画ではあっても、かぎりなく芸術的な絵である。誰も目を逸らすことなどできない。
「……大丈夫じゃ。怯えるな、恥じるな。ただ、与えられる快楽をぞんぶんに受け取れば良いのじゃ」
囁いた男は、それからそっと頬に口を付けてきて、アベルの涙を吸いとった。
「い、いやだ……、もう許して」
弱音を吐かずにはいられないアベルに、王はさらに宥めるような言葉を向けてきた。
「媚薬が効いておるから、辛くはないじゃろう? ん?」
言うや、王はアベルの肩に顔をうずめた。恋人同士のような仕草にアベルは戸惑ったが、それよりも、言われた言葉が気になる。
訝しむアベルに王は莞爾と笑った。
「そうじゃ。あれは毒ではなく、媚薬だ。花嫁が初夜の晩をたのしめるためにな」
「なっ……」
無意識でアベルは周囲を見回し、カッサンドラをさがしていた。
たどり着いた目線の先のカッサンドラは、微笑している。残酷な女神のように、美しい魔女のように。
(そんな……! まさか、そんな……)
騙されていたことを受け入れられないでいるアベルに、王は悪魔のように囁いた。
「あれは一種の護符のようなものじゃ。そなたが絶望のあまり自害したり発狂したりせぬようにな。希望がある限り人は諦めぬものじゃ」
ディオ王は指先でアベルの紅い突起をつまみあげる。
「そ、そんな……」
アベルは呻かずにいられない。
頭上で滑車のきしむ音が、まるで夢の世界のことのように遠く聞こえる。
「カッサンドラを恨むでない。あれは余の命に従ったまでじゃ。そなたに希望を与え、生かしつづけるためにな。じゃが、もう大丈夫じゃ。そなたはもはや自害する気もなければ、狂うこともない」
「な、なぜ……!」
言っているあいだにも、上から、鎖が落ちてくる。鎖の先には、黄金の輪がある。以前に見たものと同じ、高価な拘束具だ。
その黄金の拷問具がアベルの両手首に触れる。
アベルは両手を大きく広げるかたちで頭上で手を拘束され、両脚を左右から王とエゴイにささえられる羽目になった。
「ううううっ!」
王の指が、蕾をまさぐり、慎重な手つきで、馬上の道具へと導く。
「はぁ……!」
はしたなくも漏らしてしまったアベルの先走りを、潤滑油がわりに道具にこすりつける。王みずからの念の入った準備だ。
「愛い奴じゃ。これから、毎夜、余がこうしてすべてをしてやるからの」
悔しげに、不自由な体勢で身もだえするアベルの様子はまさに一幅の絵だ。煽情的な猥画ではあっても、かぎりなく芸術的な絵である。誰も目を逸らすことなどできない。
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