燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「おお。久しぶりだな。何をしているんだ?」
 曇り空のもと、一瞬、太陽が出たかと思わせられたのは、相手が獅子のたてがみのような金髪の持ちぬしだからだろう。さらに華を添えるような上等な純白のトーガに、肩には蒼玉サファイアの飾り留。その飾り留ひとつで庶民の家族がゆうに一年は遊んで暮らせるだろう。
 ディオメデスの背後には、いつもよく一緒にいる友人二人がいる。その後ろには従者らしき奴隷二人。都合、五人と顔を合わせて、リィウスは両替商の店の前だけにひどくばつの悪い気がした。
 リィウスの家の貧窮ぶりは、とっくにこの連中の耳に入っているだろう。リィウスは不覚にも、外套を着こむようにして首をすくめてしまい、内心おのれを叱咤した。委縮しているように思われただろうか。
「よもやこんな下町でお前の顔を見るとはな。いつも図書館で本の虫だと思っていたが、おまえも隅に置けないな。……遊びに来たのか?」
 ここから少し行くと、いかがわしい女郎屋がある。娼館というよりも、まさに場末の女郎屋で、貴族の子弟があそぶ場所ではないが、なかには敢えてそういう雑なところを好む者もいると学友から聞いたことがある。おそらくディオメデスたちもそんな輩なのだろう。あらためてリィウスは彼らに嫌悪と軽蔑を感じた。
「用事があって……今帰るところだ」
 リィウスは自分の声に怯えが出ていないことを祈った。一刻も早くこの場を去りたい。
「俺たちはこれから女に会いに行くんだが、おまえ、付き合わんか?」
 悪びれもせずそんなことを言い、ディオメデスは碧の目をぎらりと妖しく光るせる。おなじ碧眼でも、ナルキッソスのような露に濡れた若葉の色ではなく、強烈な個性とほとぼしる熱をしのばせるような、地下に燃える銅鉱物のような碧。この目を一目見ると、持ちぬしが一筋縄でいかない男であることが良くわかる。鼻梁はたかく、頬骨は自我のつよさを見せつけるように張っており、男性的な美貌にめぐまれている。
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