燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 街外れの人通りもない場所に、ぽつんとその館はあった。
「着きましたよ」
 マロの声に我にかえったリィウスは、あわてて馬車から下りた。
 館の門扉が外に向かって開いているのがリィウスの気をひいた。外に向かって扉を開けていいのは特権階級の家屋のみだ。ローマの未占有地はすべて国のものとされているため、庶民ならば富裕層であっても門扉を内側に開くように造る。
 石門を通ると、糸杉が見える。
 むかえに出てきた館の人間に案内されるように、マロ、リィウス、ナルキッソスとつづく。今日は、家の召使は連れてこなかった。話が話だけに、このことは友人の誰にも告げていない。ただ、見送りにきたアンキセウスの自分を見る目がひどく曇っていたことが気になる。
 庭木を見上げながらリィウスたちは歩をすすめた。外観からは、貴族の別荘のようだ。
「ここは〝柘榴荘〟と呼ばれております」
 マロの言葉に、リィウスはつい辺りを見回した。べつに柘榴の木は見当たらない。
「こちらへ」
 マロは勝手を知っているようで、迎えにきた家人とも顔見知りのようだ。娼館の人間と親しんでいるマロに、潔癖なリィウスは嫌なものを感じてしまう。
(だから堅物だとか、朴念仁だとか言われるんだろうな、私は……)
 自分でも自分の不器用さを自覚してはいるが、変えれるものでもないし、変えたいとも思わない。
「まぁ、ようこそ、マロ様!」
 屋敷の奥から出てきた女人が、高い声をあげて、緋色の裾を散らしながら小走りにマロに近づいてくる。こういうところにいるのだから、貴婦人ではないのは当たり前だが、風貌もリィウスの周囲で見知る女人とはちがう。
「久しぶりだな、リキィンナ」
 マロはリキィンナと呼んだ相手を抱擁した。
 リキィンナが呆然としているリィウスたちに視線をよこす。
 ちぢれた黒髪、切れ長の色っぽい目は緑色の粉でふちどられ、ひどく色っぽく見える。腰や脚のうごきに妙なものを感じる。肌の色はローマの庶民の娘とくらべても黒い方だろう。煮詰めた蜂蜜のようなその肌からは野性的な魅力が立ちこめていて、彼女を印象的に見せる。
「色気があるでしょう?」
 その問いにはうなずかず、リィウスはこわばった笑みを見せた。
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