燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「……ローマ人ではないようだな」
「母親がヌビア人なんですよ。娼婦でね。リキィンナの父親は都の商人で。彼女はこの娼館で生まれ育った、生まれながらの娼婦ですよ」
 娼館で生まれ育った、生まれながらの娼婦という言葉に、ついリィウスは、悪いとは思いつつも、珍獣を見るような目でリキィンナを見てしまった。
 リィウスが今まで生きてきた世界の感覚からすると、目の前の人物が摩訶不思議な生き物に見えてしまうのだ。
 リィウスは背が固くなってきている自分に気づいた。彼女のもたらす甘い香と体臭のせいだ。そして、透けて見える緋色の衣の下で、はじけるような乳房。その先端が、目を刺す。いたたまれないものを感じて目を伏せてしまう。
 リィウスは、あと数ヶ月で十九になろうというのに、まだ女というものを知らなかった。
 通常、ローマの男子――奴隷は別として――は、徴兵をむかえる十七歳までに成人の義をむかえ、父親や保護者に連れられて娼館や売春宿へ行く。
 初体験をすませることが、成人となる通過儀礼にふくまれているのだ。だが、ちょうどリィウスがその歳頃になったとき父の健康が思わしくなく、財政的にも困窮がひどくなったときであり、なによりリィウス自身がそれを望まなかったことで、リィウスは形だけの成人の義を終え、まだ女人の肌に触れていなかった。
 どうしても、リィウスは金を出して女性と褥をともにするという、当時は誰もが当たり前だと見なしている行為が受け入れられなかったのだ。
 もしかしたら自分は少し異常なのか、もしくは性欲が人並みはずれて少ない質なのかもしれない、とリィウス自身考えたり悩んだりすることもあったが、それならそれでいいと思っている。
 リィウスがまだ無垢なのではないか、ということは、学友たちのあいだでも公然の秘密として囁かれていた。口にしなくとも、どうしても伝わるらしい。ディオメデスなどは、一時、顔を見るたびにそのことを暗にからかってきた。そしてそのたびに、氷の瞳と火を吹く口調で応えてきたリィウスである。
「あら、こちらが、例の人……?」
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