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六
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「ええ、こちらへどうぞ」
「いや、あの……」
断ろうとするのをさえぎるかのように、マロの腕がリィウスの背を押す。
「さ、行ってみましょう」
それ以上つよく言えず、タルペイアの案内で廊下にでた。
列柱廊を歩いていくと、中庭が見える。手入れされた庭木のかたすみに、一本の柘榴の木が見えた。それがこの屋敷で見たゆいいつの柘榴だ。
「このお屋敷は、もとはさる貴婦人が、憩いの場をもとめて造られたものですのよ。その方が亡くなられてから、私の祖母がゆずり受けましたの」
「タルペイアの祖母は貴族でしてね……」
マロが低くささやいた。
貴族の孫娘が、どういういきさつで娼館の主となったのか。気を引かれたが、問うのははばかられる。
「この庭をはさんだ、向かい側の棟は娼婦たたちの部屋で、そこで客を待つことになっていますのよ」
タルペイアが指さす建物を見ると、遠目にも、紅や緋色、桃色、朱色の華やかな帳が見える。あの帳の向こうでは娼婦たちがまだ客の少ないこの時間、午睡をとってまどろんでいるのかもしれない。想像すると、純真無垢なリィウスはなんとも居心地悪い。
少し進むと、アトリウムと呼ばれる、雨水をためるための吹き抜けの屋根と貯水場が見えてきた。そこで数人の女性たちがたむろんでいる。彼女たちの醸しだす体臭と香水の混じったなんともいえない女の匂いに、またリィウスは気圧されそうになる。
「おまえたち、ここで何をしているの?」
きゃっ、と女たちの一人はタルペイアを見て怯えた声をあげた。女教師に悪戯を見つけられたお転婆娘のようだ。
「サラミスが、お仕置きを受けているのです、ドミナ・タルペイア」
先ほど声をあげた、まだ少女のような赤毛の娘がこたえた。彼女もまた娼婦なのかと思うとリィウスは意外な気さえする。
ちなみにドミナとは名家の既婚女性にあたえられる敬称である。ここではタルペイアはドミナとされるのだろうか、と少し皮肉な気持ちでリィウスは推測した。
「いや、あの……」
断ろうとするのをさえぎるかのように、マロの腕がリィウスの背を押す。
「さ、行ってみましょう」
それ以上つよく言えず、タルペイアの案内で廊下にでた。
列柱廊を歩いていくと、中庭が見える。手入れされた庭木のかたすみに、一本の柘榴の木が見えた。それがこの屋敷で見たゆいいつの柘榴だ。
「このお屋敷は、もとはさる貴婦人が、憩いの場をもとめて造られたものですのよ。その方が亡くなられてから、私の祖母がゆずり受けましたの」
「タルペイアの祖母は貴族でしてね……」
マロが低くささやいた。
貴族の孫娘が、どういういきさつで娼館の主となったのか。気を引かれたが、問うのははばかられる。
「この庭をはさんだ、向かい側の棟は娼婦たたちの部屋で、そこで客を待つことになっていますのよ」
タルペイアが指さす建物を見ると、遠目にも、紅や緋色、桃色、朱色の華やかな帳が見える。あの帳の向こうでは娼婦たちがまだ客の少ないこの時間、午睡をとってまどろんでいるのかもしれない。想像すると、純真無垢なリィウスはなんとも居心地悪い。
少し進むと、アトリウムと呼ばれる、雨水をためるための吹き抜けの屋根と貯水場が見えてきた。そこで数人の女性たちがたむろんでいる。彼女たちの醸しだす体臭と香水の混じったなんともいえない女の匂いに、またリィウスは気圧されそうになる。
「おまえたち、ここで何をしているの?」
きゃっ、と女たちの一人はタルペイアを見て怯えた声をあげた。女教師に悪戯を見つけられたお転婆娘のようだ。
「サラミスが、お仕置きを受けているのです、ドミナ・タルペイア」
先ほど声をあげた、まだ少女のような赤毛の娘がこたえた。彼女もまた娼婦なのかと思うとリィウスは意外な気さえする。
ちなみにドミナとは名家の既婚女性にあたえられる敬称である。ここではタルペイアはドミナとされるのだろうか、と少し皮肉な気持ちでリィウスは推測した。
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