燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
18 / 360

しおりを挟む
「ええ、こちらへどうぞ」
「いや、あの……」
 断ろうとするのをさえぎるかのように、マロの腕がリィウスの背を押す。
「さ、行ってみましょう」
 それ以上つよく言えず、タルペイアの案内で廊下にでた。
 列柱廊を歩いていくと、中庭が見える。手入れされた庭木のかたすみに、一本の柘榴の木が見えた。それがこの屋敷で見たゆいいつの柘榴だ。
「このお屋敷は、もとはさる貴婦人が、憩いの場をもとめて造られたものですのよ。その方が亡くなられてから、私の祖母がゆずり受けましたの」
「タルペイアの祖母は貴族でしてね……」
 マロが低くささやいた。
 貴族の孫娘が、どういういきさつで娼館の主となったのか。気を引かれたが、問うのははばかられる。
「この庭をはさんだ、向かい側の棟は娼婦たたちの部屋で、そこで客を待つことになっていますのよ」
 タルペイアが指さす建物を見ると、遠目にも、紅や緋色、桃色、朱色の華やかな帳が見える。あの帳の向こうでは娼婦たちがまだ客の少ないこの時間、午睡をとってまどろんでいるのかもしれない。想像すると、純真無垢なリィウスはなんとも居心地悪い。
 少し進むと、アトリウムと呼ばれる、雨水をためるための吹き抜けの屋根と貯水場が見えてきた。そこで数人の女性たちがたむろんでいる。彼女たちのかもしだす体臭と香水の混じったなんともいえない女の匂いに、またリィウスは気圧されそうになる。
「おまえたち、ここで何をしているの?」
 きゃっ、と女たちの一人はタルペイアを見て怯えた声をあげた。女教師に悪戯を見つけられたお転婆娘のようだ。
「サラミスが、お仕置きを受けているのです、ドミナ・タルペイア」
 先ほど声をあげた、まだ少女のような赤毛の娘がこたえた。彼女もまた娼婦なのかと思うとリィウスは意外な気さえする。
 ちなみにドミナとは名家の既婚女性にあたえられる敬称である。ここではタルペイアはドミナとされるのだろうか、と少し皮肉な気持ちでリィウスは推測した。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...