燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 音楽のような美しい調べの言葉が朱唇しゅしんからこぼれるが、その見開いた黒い瞳は、先ほどのリキィンナとおなじく、どこかねっとりとしたものを秘めて、舐めるように、値踏みするようにリィウスを見る。ナルキッソスではなく。
「よく探しだしてきてくれたわね。二人とも絵のようだわ。百合と薔薇を見ているよう」
 娼館の女たちというのは、皆こんな無遠慮な目で初対面の相手を見るものなのだろうか。
 リィウスはますます不快感が増してきて、彼女からただようきつい香水の香りも相まって、後退りしそうになった。
「その……、ナルキッソス坊ちゃんがここで働くことを納得してくれたのだ」
 マロはややばつが悪そうに言い、ナルキッソスの背を押した。ナルキッソスの横顔は怯えたように硬直している。
「あら……まぁ、可愛い坊やだこと。これなら、さぞ客がつくわ」
 タルペイアが猫のように目を細めた。その様子にリィウスはぞっとした。
 前方のタルペイアといい、となりに立つリキィンナといい、どこか普通でない女人ふたりを見ていると、この柘榴荘がどうにも不気味な場所に思えてきて、自分が化け物屋敷に迷いこんできて妖猫ようびょう二匹に襲われそうになっているような馬鹿げた妄想を抱いてしまうのだ。
 あながち、それが的外まとはずれでなかったことを、リィウスは後で痛いほど思い知ることになるのだが……。
 そんなリィウスの心を読んだかのように、タルペイアが笑みを向けた。
「ご安心ください。この柘榴荘は、高級娼館ですからね。来られるお客様は皆ひとかどの人物ですし、はたらく娼婦男娼の待遇も破格のものですわ。都の、ありふれた娼館とはまるで違っていますのよ。食事も衣も、飾り物も、お道具も最高級のものを用意できますわ。ここでしばらく過ごせば、もう外の世界に戻りたいとも思われなくなりますわよ。ほほほ……」
 道具というのは、鏡や化粧品のことかとリィウスは見当をつけたが、弟が陰間のように装飾品を身につけ化粧をするのかと思うと、いてもたってもいられなくなった。
(やはり無理だ。断らなければ……)
 そう伝えようとして口をひらこうとした瞬間を見計らったように、マロが声をあげた。
「では、タルペイア、屋敷のなかを案内してくれないか」
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