燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 答えないサラミスに苛立ったように問う女主人に向かって、アスクラという奴隷が代わりにこたえた。
「サラミスは、金を取らずに客、いえ、金を払っていないので客ではなく、男にやらせたんですよ」
「ま! なんて馬鹿な娘なの!」
 リィウスがまた息を呑んだのと、タルペイアの右手がサラミスの左頬を打ったのはほとんど同時だった。
「あれほど言っただろう! ただでやらせるんじゃない、と! おまえは娼婦なんだよ! 娼婦が金を取らずに脚を開くんじゃないよ!」
 下町の女のような下品な言葉づかいにリィウスは目を丸くした。
 呆然としているリィウスの耳にマロがまた囁く。
「あの罰は〝竪琴〟と呼ばれているものですよ。ちまたでいわれる竪琴刑というのは、ああいうふうに磔にして手足に重しをつけて引き延ばすというものですが、この柘榴荘のは独自のものでしてね。くくっ……」
 卑猥な笑声が毒のようにリィウスの鼓膜に染み込んでくる。
「道具を持っておいで!」
 腰に片手を当て、タルペイアが叫ぶと、下働きらしい召使が小走りに盆のようなものを両手にして近づいてくる。
「どれがいいかね、この馬鹿な淫乱娘を仕込むのには……」
 タルペイアの声には残忍な響きがある。
「い、いや!」
 サラミスは銀盆をわざとらしく見せつけられて、ますます怯えた顔になった。
 はたで見ていたリィウスまでも血の気が引きそうになった。
「な、なにをするつもりなのだ……?」
「まぁ、見ていればわかりますよ」
 こんな光景には慣れきっているようで、マロはいっそ面白そうに目を細めている。
 否応なしに道具がリィウスの目をおそう。
「あ、あれは……?」
 目を凝らすと、それは檜皮ひわだ色に見える。細長い棒のようで、柄のところをタルペイアが握っている。
「オリスボスというものですよ。木の芯に動物の皮をかぶせているんです。張型ですよ。といっても、リィウス様はご存知ないでしょうがね。くく……」
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