燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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毒若葉 一

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「どうでした? 話はうまくいきましたか?」
 ナルキッソス一人だけを出迎えて、アンキセウスは眉をしかめた。
「まぁね」
 ナルキッソスはやや雑な仕草で外套をアンキセウスに手渡した。
「思っていたより、けっこううまくいったよ。兄さんが柘榴荘で働くことになった」
「リィウス様が? あの誇りたかい方がよく承知しましたね」
 二人は館の奥室に入った。以前、ナルキッソスとリィウスがマロを交えて相談した室である。ナルキッソスは青銅の椅子に腰かけると、脚を組んだ。どこか商売女のようなくずれた仕草だ。
「僕がちょっと涙目になってみせたら、たやすく折れてくれたよ。ああ、うまくいって良かった。もうちょっと泣き叫んだり怯えたりしてみせようかとも思ったんだけれど」
 ひどくはすっぱな表情と雰囲気だ。娼館で見せた怯えた兎のような風情はすこしもない。
 アンキセウスは内心、感心した。リィウスの前での素直で清純な少年の面影はかけらもない。白い肌は東洋の陶器のように美しくなめらかで、黄金の髪は女が羨ましがるほどにゆたかだ。アンキセウスの今までの人生で見て来たどんな少年よりも、女よりも美しいといえる。
 だが、今朝は若葉色にかがやいていた碧の瞳には邪知がたぎっている。この美しい薔薇のような美少年は、花弁に麻薬のような蜜を秘め、茎には無数の小針のような棘を備えていたのだ。そして瑞々みずみずしい若葉からは毒をしたたらせている。兄の前では、内に持つ邪悪な本性をみごとに隠しおおせてきたが、兄が家を出た今、彼は思う存分、彼の本質である悪の性分をあまつことなくアンキセウスに見せている。
「……もし、リィウス様がご自分が代わりに働くとおっしゃらなければ、どうするつもりだったんです? あなたが本当に娼館で働くことになっていたかもしれませんよ」
「それならそれでしょうがないよ。でも、兄さんのことだから、僕が辛い想いをしているって訴えたら、やっぱり黙ってはいられないと思うよ。遅かれ早かれ、兄さんは柘榴荘で僕のかわりに客を取ることになっていたんだよ」
 ナルキッソスは脚を組みかえた。だるそうに、ぞんざいに椅子の上で背を伸ばし、右手で髪をかきあげる。どうみても女の仕草だ。それもかなり身持ちの悪そうな。
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