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六
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「こう告げてくれ。金策のためしばらく家には帰れないが、心配しないようにと」
嘘ではない。やがて真実を伝えなくてはならいが、今は率直に言うのがためらわれる。
「ナルキッソス、勉強や武芸の鍛錬はおこたらないように。家が再興できれば、おまえもしかるべき役努に就けるかもしれない。いつかはローマに尽くす人間になるため努力をするのだ」
「わ、わかりました」
涙できらめく若葉色の目を逸らし、ナルキッソスは悄然とした様子でマロに背を押されるようにして去っていく。そのかよわげな後ろ姿を見送ってから、リィウスはタルペイアを見た。
「借金は私がかならず返す。あの子のことはそっとしておいてくれ」
「あんた次第よ。あんたが逃げたり、抗ったりするようなら、あの坊やに代わってもらうことになるわね」
「私は逃げない」
リィウスは背をのばして断言した。
(そうだ。どれほど辛くとも、私は貴族の誇りにかけても誓ったことはたがえない。屈辱に耐えて、借金を返済し、かならず家を盛りたててみせる)
このとき、リィウスはまだ知らなかった。男娼になるということがどういうことか、客の相手をするということがどういうことか、タルペイアのもとで柘榴荘ではたらくということがどういうことか。おぼろげな知識で聞き知ってはいても、現実はリィウスの予想をはるかに上回るものだった、ということを、この後リィウスは骨身に染みて思い知ることになるのだった。
嘘ではない。やがて真実を伝えなくてはならいが、今は率直に言うのがためらわれる。
「ナルキッソス、勉強や武芸の鍛錬はおこたらないように。家が再興できれば、おまえもしかるべき役努に就けるかもしれない。いつかはローマに尽くす人間になるため努力をするのだ」
「わ、わかりました」
涙できらめく若葉色の目を逸らし、ナルキッソスは悄然とした様子でマロに背を押されるようにして去っていく。そのかよわげな後ろ姿を見送ってから、リィウスはタルペイアを見た。
「借金は私がかならず返す。あの子のことはそっとしておいてくれ」
「あんた次第よ。あんたが逃げたり、抗ったりするようなら、あの坊やに代わってもらうことになるわね」
「私は逃げない」
リィウスは背をのばして断言した。
(そうだ。どれほど辛くとも、私は貴族の誇りにかけても誓ったことはたがえない。屈辱に耐えて、借金を返済し、かならず家を盛りたててみせる)
このとき、リィウスはまだ知らなかった。男娼になるということがどういうことか、客の相手をするということがどういうことか、タルペイアのもとで柘榴荘ではたらくということがどういうことか。おぼろげな知識で聞き知ってはいても、現実はリィウスの予想をはるかに上回るものだった、ということを、この後リィウスは骨身に染みて思い知ることになるのだった。
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