燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 せかされて、リィウスは小刻みに震える手でとにかく名を書いた。みずから自分の死刑執行の書類に署名をした気分だ。
 幾百年とつづいた由緒ある名が、まさか娼館の名簿につらなるなど、祖国のために尽くした先祖の誰が予想したろう。リィウスは、自分に命を伝えてくれたすべての先祖にたいし、申し訳なさのあまり泣きたくなった。
「それでいいわ。では、今日からあなたはこの柘榴荘の男娼よ。主である私の命令には絶対服従よ。わかった?」
 答えることができないでいるリィウスに、タルペイアの目がきつく光る。
「わかったの?」
 押し殺したような声で問われ、リィウスは不承不承うなずく。
「返事は?」
 リィウスは唇を噛みしめる。娼婦からこんな態度を取られるとは。だが、今は従うしかない。
「わ、わかった」
「ふん。本当なら、生意気な娼婦には鞭をくれてやるのだけれど、今日は初日だから勘弁してあげるわ。では、話はまとまったから、そちらのお二人はお帰りを。それとも、遊んでいかれるかしら」
「いや……」
 マロは曖昧な返事をし、ナルキッソスはうつむいた。その細い肩はちいさく震えている。
「ナルキッソス、おまえは家に帰って、私が帰る日までアンキセウスとともに家を守っていてくれ」
 リィウスは弟を安心させるため、なるべく軽い声で言うように努力した。
「兄さん……」
 ナルキッソスの声は涙声になっていた。
「そう遠くない日に帰れるはずだ。マロ、頼む。この子を連れて帰ってやってくれ」
「わかりました。心配なので、様子を見に来ますよ」
 来ないでくれ! と叫びたいところだがこらえた。
「ア、アンキセウスにはなんて言えばいいの?」
 リィウスは我知らず拳をにぎりしめていた。忠実、謹厳な召使に、この状況をどう説明すればいいのか。まさかプリスクス家の嫡男、いや当主が、借金のために男娼になる、などと。
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