燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 なにより、借金を踏みたおすなどという無責任なことは、やはりリィウスには出来ない。
(死ぬことは、いつでも出来る……)
 借金を返し、責任を果たし、ナルキッソスが成人し一人で生きていけるのを見届けてから死んでも遅くはない。
「わ、解った……」
 リィウスは自分の声が震えていることを自覚した。
「プリスクス家の借金だ。私が払う……。わ、私が男娼となってこの屋敷で働けばいいのだな」
「兄さん!」
「リィウス様……」
 二人があわてているのを尻目に、リィウスはタルペイアに向かって宣戦布告でもするかのように告げた。
「私が男娼となる」
「あら、話がわかるじゃないの」
「駄目、駄目だよ、兄さん!」
「リィウス様、もう一度考えなおした方が……」
「では、さっそく契約書を用意するわ。筆と紙を持っておいで」
 それまで壁際で控えていたリキィンナが急いで羊皮紙と葦の筆を持ってきた。
「では、これに署名をしてちょうだい」
 リィウスは胸の動悸をおさえ、書かれている文書に目を通した。
 借金を返済するまでこの屋敷で働くこと、借金返済までは許可なしに屋敷を出れないこと、返済まえに逃亡、もしくは死亡した場合は弟が借金を肩代わりすること――。
 これは逃亡や自害を禁じるためにだろう。リィウスは次の文へと目を進めた。
 主の決めた客の相手をすること、客は断れないこと……。眩暈めまいがしそうになるのをこらえて、とにかく理解するよう努める。だが、さらに
 いかなる客の求めにも応じる――
 同時に複数の客の相手をする場合は料金は割増わりましとなり――
「ふ、複数の客の相手をすることもあるのか?」
 問う声はどうしても小さくなってしまう。
「それだけじゃないわよ。大勢の前でしてもらうこともあると書いてあるでしょう? まぁ、他にもいろいろ細かい決まりがあるけれど、それはおいおい説明するわ。さ、早く署名してちょうだい」
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