燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「……そこまで言うのなら、お兄さんのあんたが身を売る? 本物の貴族の若様ならさぞ高値で売れるわよ」
 その言葉に仰天したのはリィウスだけではなかったようだ。
「駄目だよ、兄さん!」
「いけませんよ、リィウス様」
 ナルキッソスとマロがほとんど同時に首を横に振る。
「プリスクス家の跡取り息子が男娼だなんて、とんでもない」
「そうだよ、兄さんが身を売るなんて……、そんなこと絶対駄目」
 リィウスはしばらく口を開けないでいた。
「わ、私が……身を売る?」
 その言葉が他人の声のように自分の耳に戻ってくる。
「そうよ。あんたが弟の代わりに身を売るっていうのなら弟には帰ってもらっていいわよ。どうする? 考えてみれば家の借金なら、跡取りのあんたが払うのが筋というものよね」
「おいおい、タルペイア、言葉に気をつけろ。リィウス様の母上は皇室にもつながる名家のご出身だぞ」
 顔をゆがめてたしなめるマロに向かって、タルペイアは鼻を鳴らした。
「ふん。言っておくけれど、私だって貴族の血を引いているのよ。ここであんまり身分を鼻にかけないでもらいたいわね。ここで通用するのは顔と身体、それと閨での技術よ」
 そこまで言ってタルペイアの表情はすこしなごんだ。
「……でも、まぁ、たしかに血筋や家柄も馬鹿にできないわね。正真正銘、名家の若様が相手をしてくれるとなると、いくらでも金を出す成金は大勢いるわ。ここはそういうのを売りにしている店だしね。あのサラミスだって、もとは良家の令嬢だったのよ」
「え……、そうなのか?」
「他にももとは貴族の令嬢令息、未亡人だという商品はたくさんいるのよ。なにも、あんただけが不幸だというわけじゃなし。しばらくここで頑張ってみてくれないかしら? 私としては一日でも早く貸した金を取り戻したいんでね」
 リィウスは泣きたくなった。
 絶体絶命だ。自分だけのことなら、殺されてもいいとさえ思うし、男娼になるぐらいなら自害したほうがましだ。だが、自分が死ねば、ナルキッソスが男娼とならざるを得ない。まだ幼いナルキッソスに、プリスクス家の誇りのために一緒に死ねというのは酷だ。
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