燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「なんとかするって、どうするつもりなの? 聞いた話では屋敷も土地も別荘もとっくに抵当に入っているというじゃないの? 宝石や家具も金目のものはすべて売り払ったんでしょう?」
 そんなことまで伝わっているのかと思うと、リィウスは悔しさに歯ぎしりしそうになった。
「それでも、我が家は貴族だ。弟を男娼になぞできるか!」
「その坊やは庶民でしょう? それに母親はもと奴隷だったと聞いたけれど」
 リィウスは鼻白んだ。ナルキッソスの母であるポルキアはたしかに解放奴隷だが、そんなことまで初対面の娼館の女主が知っているということに驚いたのだ。思えば、債権者なのだからリィウスの家のことはマロから筒抜けなのだろうが、はなはだ不愉快だった。そんなリィウスの気持ちなど歯牙しがにもかけず、高慢そうにタルペイアは告げた。
「貴族の子弟ということで売れば、金になるんだから、幸運なのよ、その子は」
 なにが幸運だ、と叫びそうになったとき、ナルキッソスが口を開いた。
「いいんだ、兄さん、僕は平気だよ。言われたとおり、僕はもともと解放奴隷の子どもなんだもの。ここで働いてお金を返すよ。へ、平気だよ……」
 声は震えている。
「僕が働くことで、兄さんが助かるなら……僕はなんだって出来るよ」
「ナルキッソス!」
 リィウスの胸はつぶれそうにになった。
「駄目だ、駄目だ! おまえを男娼にするぐらいなら、私は死ぬ!」
「兄さん!」
 ナルキッソスがリィウスの胸にしがみついた。声をあげてしばし泣いてから顔を上げ、ナルキッソスは呟くように、だが、しっかりと言い放った。
「兄さんの気持ちは嬉しいけれど、他にもうどうしょうもないよ。借金を踏みたおすことなんてしたら、それこそ家名に泥を塗ることになるよ。僕、男娼としてここで働くよ。兄さんのためなら、なんだってする」
「ナルキッソス!」
 リィウスは弟を抱きしめた。涙に濡れたナルキッソスの碧の瞳に、リィウスの方が泣きたくなる。
 わざとらしい溜息の音をたてて、タルペイアが首を振った。
「あらあら、困ったわねぇ……。それじゃ、」
 そこで一呼吸置き、タルペイアは抱きあっている兄弟をおもしろそうに見つめた。
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