燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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身売り 一

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(駄目だ!)
 リィウスは心のなかで叫んだ。
 ナルキッソスをこんなところで働かせることなどできない。家の借金のために男娼にさせるなど、とんでもない。
「帰る……」
 リィウスは呟いていた。
「え? なんと、リィウス様?」
「マロ、駄目だ。私にはナルキッソスを売ることなど出来ない! すまないが、この話はなかったことにしてくれ。帰るぞ、ナルキッソス」
 ナルキッソスの袖を引いて、彼を引き寄せ、リィウスは帰るべく足を進めようとしたが、立ちはだかったのはタルペイアと宦官奴隷のアスクラだ。
「今更、そういうわけにはいかないわ。どういうことよ、マロ、話が違うではないの?」
 タルペイアはマロに向かってひどくくだけた口調と態度をしめした。
「いやぁ……」
 マロは弱ったように黒い眉をしかめる。
「とびきりの上玉が入ると、すでにお客の幾人かには知らせているのよ。皆上客なのよ。なんと説明すればいいの?」
「それはそちらの事情だろう。私はまだこの話を承諾していない」
 リィウスは毅然きぜんと背を伸ばして反論する。
「でも、聞いた話では、そちらもかなり大変だと。お金が手に入らないと困るんじゃないの?」
 首を振りながら、眉をしかめて、わざとらしく同情顔で言われてリィウスは腹が立った。
「それはあなたには関係ない!」
「あら、関係あるわ。私も債権者の一人なのよ」
 意外なことを言われてリィウスは耳を疑った。
「なんだって?」
 咄嗟にマロに目をやると、マロはますます困ったような顔を見せる。
「いやぁ……実はそうなのですよ。お屋敷の借金は、亡きお父上と話しあって、私が引き受けましてね。ですが、私もすべてを引き受けるのは無理なので、タルペイアに相談したところ、彼女が半分持ってくれまして」
 つまり、プリスクス家の借金、それはとりもなおさず嫡男であるリィウスの借金ということになるが、それは今はマロとタルペイアから借りているということになる。目の前の二人が債権者ということになる。
「そんな……」
 リィウスは激しく動揺した。マロは哀れむような目をする。
「リィウス様、弟を男娼にしたくないお気持ちはわかりますが、今やプリスクス家に売れるものとなると、もはやナルキッソス坊ちゃんしかいませんよ」
「そんな……そんな。無理だ。頼む、もう少し待ってくれないか……。私がなんとかするから……」
 困りはてて言うリィウスに、タルペイアが針のような視線を投げてよこす。
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