燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「罰だよ、そのまましばらくそうしているといい」
「ああ……!」
 どうやら、絶頂まぎわ、というところで行為が中断されたようだ。リィウスにはわからないが、サラミスにとっては相当苦しいのだろう。
「ああ……そんな、後生です、タルペイア、助けて……」
「駄目だよ! そこで反省しているといい」
 冷酷に言い捨てると、タルペイアは振りむいた。ちょうど、リィウスたちと向き合うかたちになる。
「これは初日からとんだところをお見せしてしまったわね。でも、坊やにはいい勉強になったんじゃないかしら」
 艶然と笑う姿は、つい先ほどあれだけ下劣な行為を見せつけられたというのに、やはり美しく思えるのだ。
 リィウスは年寄りたちの話からきいた異国の女王クレオパトラを思い出した。シーザーやアントニウスをたぶらかした夷狄いてきの女王は、古老たちの昔話で聞くとひどく評判が悪いが、それでも人を惹きつける強烈な魅力の持ち主であったことは確かだろう。歴史の授業のあと「クレオパトラがもう少し若ければ、アウグストゥスも危なかったかもしれない」と笑っていた者もいた。 
「あれがこの柘榴荘の規律をやぶった者への仕置きなのよ。あれは〝竪琴〟だけれども、他にも〝子馬〟と呼ばれる独特の罰もあるのよ」
 子馬という、巷間こうかんで知られている刑罰は台の上に罪人を寝かせて手足に錘をつけて引っ張るというものだが、ここでいう子馬刑とはまた別のものだとマロが説明した。
「まぁ、機会があればリィウス様もご覧になれるかもしれませんね……」
 と呟くマロの黒目はひどく濁って見えた。
「大丈夫よ、坊や。ちゃんと言いつけを守って真面目にはたらいていれば、坊やにはあんなひどいことをしないわ」
 リィウスはかたわらのナルキッソスが震えていることに気づいた。当たり前だろう。リィウスでも震えそうになったのだから。ナルキッソスのか細い手がリィウスのトーガの端をつかんだ。
 小さい手だ。小柄で華奢なナルキッソスの手は、おなじ年頃の男子とくらべればかなり細い。首には、いつも付けているお守りのちいさな革袋が見える。それは成人式前の子どもだけが持つもので、あらためてナルキッソスの幼さを感じた。
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