燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 ローマの男子として、リィウスもひととおりの武芸はたしなんできた。タルペイアの言うように、背にも腹にも、うっすらと筋肉が張りつめ、みなぎる若さを象徴している。肌は品よく白く、手足は長い。十九歳。青春の美しさに輝くその肉体は、神がその御手で作りたもうた一個の芸術品だった。
 タルペイアの目が輝いた。
「素晴らしいわ。本当に……。まだ少年の初々しさと、男の強靭さ。それでいて、女の優美さも備えているなんて。ヴィーナスとマルスの申し子ね。……これは本当に、滅多にない掘り出しものだわ」
 タルペイアは歌うように言う。今にも小躍りしそうだ。その顔は、手にいれた商品が、想像していた以上に価値あるものだと知った商人の満足さと誇らしさに満ちている。
「でも、まだ足りないものがあるわね。徹底的に欠けているもの。……リキィンナ、それはなんだと思う?」
 最初は楽しげに、最後はどこか脅すように、かたわらのリキィンナに訊く。
「色気、かしらね?」
 リキィンナが首をかしげて、問いに問いを返す。
「そうよ。さすがリキィンナ。この商品にはまだ色気が不充分だわ。ふふふふ」
 女のねばつく手に、剝きだしの胸を撫でられ、リィウスは悲鳴をあげそうになった。恥辱に全身がふるえる。
「安心しなさい。これから私がたっぷりと、おまえに足りなり色気を仕込んでやるわ。おまえはどうも堅物すぎるところがあるから、色を売るには少し物足りないわね。そこはなんとかなおしていかないとね。ふふふふ。これ、どうしようかしら?」
「ひっ」
 肉体の中心に繁る鳶色のくさむらをやんわりと手につつむようにされ、さすがにリィウスは殺していた悲鳴をあげた。屈辱に全身がふるえる。
「剃った方がいいかしらね? うちでは大抵の娘たちには剃らせているのよ。その方が客が興奮するから。ある方がいいという客もいるから、剃らせないでいるのも数人いるけれどね。おまえは、どうしようかしらね、リィウス」
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