燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「じっとしているのよ」
「あっ!」
 そこに触れたのは、だが、器物ではなく、なまあたたかい人の肌、のようなものだった。
「よ、よせ!」
 思わず抗ってしまう。
「何言っているのよ、まずは、指で慣らしておかないとね」
 かすかな笑い声をたてながら、タルペイアは指をリィウスの繊細な蕾の内へとすすめてくる。
「い、いや……だ」
「お黙り」
 声には怒りよりも揶揄がこもっていた。
 香油で濡らしているのか、思っていたほど軋むこともなく、ゆっくりと、確実に、細い指がリィウスの内側へ侵入し、うごめく。
「ううっ……!」
「今までに、ここをいじられたことはある?」
 まさか! という想いを込めて、リィウスは必死に頭を振った。
 享楽的な世界に生まれ育ってはいても、生来、潔癖で淡泊な性質のリィウスは、異性とさえ肌を合わせたこともなく、名門貴族の子弟として、ひたすら学問と、向いているとはいえないまでも武芸の鍛錬に青春をささげてきた。また、家計の逼迫に悩まされていたこともあって、性愛の遊戯にふける暇などなかったのだ。性欲の目覚めの時期にあっても、みずから慰めることも滅多になかった。
 その清純無垢な身体を、娼婦の指が蹂躙しようとしている。
 リィウスは、我知らず歯を食いしばった。
 額に汗がにじむ。
「はぁ……!」
 弱気は見せたくないが、唇が懇願を吐きだしたのは、背後の女の指が、的確にある一点を突いてきたせいだ。
「た、たのむ……、も、もう止め……」
「本当に初物なのね。これは本当に掘り出しものだわ」
 タルペイアの満足そうな笑いが響いてくる。悦楽をとことん追求するこの女には、奴隷のはかない哀願など気にもとめないようだ。
「うっ……、ああっ!」
 必死に四肢に力を入れ、とにかくこの屈辱の時間が終わってくれることをリィウスはひたすら祈っていた。

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