燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 以来、アスパシアは背を伸ばすようにしており、そうなると堂々とし過ぎていると退く客もいたが、逆に女ぶりが上がったのではないかと好む客も増え、その数も勝り、今では柘榴荘で一、二をあらそうなさけ知りだ。ベレニケにとってはなんとも面白くない話だった。
 それからもたまにメロペたちと遊びに来ることがあったディオメデスは、ベレニケにはなんの関心もないのか、もしくはメロペのお気に入りだからと遠慮しているのか、一度も自分をえらぶこともなく、来た折には、つねにアスパシアを指差した。
 隣の室で、アスパシアがディオメデスを相手にしているとき、ベレニケはメロペの脂肪にふくらんだ身体に押されて、苦痛の声を悦楽の声に代えて楽しんでいるふりをしなければならないのだから、はなはだ面白くない。
 若いくせにねちっこく、性技もつたなく、力ばかりで押し入ってくるメロペにはベレニケも辟易していた。それでも金払いが良ければまだ我慢もできるが、これもまたメロペは若いのに父親に似てひどく吝嗇りんしょくなところがあり、無駄な金はいっさい出さないという主義で、ベレニケが苦痛と嫌悪をおしかくして必死に奉仕しても、必要以上の金も贈り物もくれたことがない。欲望は人並み以上にあるのに、情というものがひどく薄いのだ。
(本当に取り柄なしね……。この豚男!)
 だが、無神経な相手は、そんなベレニケの内心の悪罵に気づくこともなく、あわただしくベレニケを寝台のうえに押し倒し、とにかく欲望を果たそうとする。形だけの恋の語らいも、親しみをこめた愛撫もまったくなく、とにかく自分の買った時間に見合うものを得ようというその意地汚さが、いっそうベレニケをうんざりさせていることにまったく気づいていない。
(いっそ、私に飽きてくれないかしらね)
 ベレニケは、敷布のうえに彼女自慢の銀髪を乱しながら、生理的ににじみ出た汗をひたいに浮かべ、天井の赤茶色の瓦をながめて内心、嘆息する。
(終わったら、早く身体を洗いたい。髪も結いなおさないとね……)
 そんな雑務をまたこなさないといけないのかと思うと、つくづくこの稼業はしんどいものだと思う。妊娠にも気をつけないといけない。万が一に客の子をみごもってしまったら、商売あがったりだ。
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