燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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(本当に綺麗なの。下手な女よりよっぽど綺麗よ。朝の海の色みたいな澄んだ蒼い目に、髪はやさしい茶色っぽい色よ。鼻筋なんて、ほっそりとして今話題の女優みたい。でも、女っぽいというわけじゃなくて、眉をしかめたときなんて、すごく凛々しくて。きっと、芯は強くて、気位が高いんだなぁ、この人って思わせられたの。声もまたすごく素敵なのよぉ……)
 そう言っていたのは……たしかコリンナだ。うっとりとした顔でしゃべりまわっていたのをあらためて思い出す。コリンナは柘榴荘では一番若い。そんな若い子の言うことだから、信憑性は今ひとつだが、タルペイアが目を付けたのだから美しいことは間違いないだろう。
「名前は聞いたのか?」
「名前? ええ……と、名前はなんだかったかしらね……たしか……ナルキッソス?」
 そんな名前を聞いた気がするが……いや、それはちがっていたか。
「それは弟の方……連れの方じゃないか?」
「そうだったわ。ええと……」
 焦れたようにメロペが問う。
「リィウスと言っていなかったか?」
 たしかにそんな名前も聞いた記憶がある。
「ええ、そうよ。そうだったわ」
 なぜメロペが知っているのか不思議だが、この男はやたらと人のことを嗅ぎまわるのが好きなのだ。今ではベレニケの出自も、親同士の確執も知っているらしく、それで敢えてベレニケを指名し、来るたびに欲望のはけ口にして喜んでいるのだ。そういう男なのだ。
「やっぱり、そうか」
 メロペの細い目がいやらしげにぎらつく。二十歳そこそこで、どうやったらこんなふうにぎらつく目ができるのか、ベレニケはいっそ感心した。
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