燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「なっ……」
 恥辱にリィウスは硬直した。
 リキィンナやタルペイアのような、すでに骨の髄まで娼婦となっている女たちはともかく、目の前にはまだ幼げなコリンナもいるのだ。彼女のまえで、リキィンナの言うような浅ましい行為はとうてい取れない。
 コリンナは俯いてリィウスと目を合わせないようにするが、そんな気遣いがいっそうリィウスの羞恥をあおる。
「私の室で……してもらえないか……?」
「またぁ! 本当に初心うぶね。困った人だわ」
 リキィンナが大げさに溜息をつき首を横に振る。
「客の前でもそんなふうだとどうするのよ? 私たちは、客に言われたら嫌、とは絶対に言えない立場なのよ。ねぇ、タルペイア、どうしたものかしら、この恥ずかしがり屋さんを」
「徹底的に調教するしかないわね」
 タルペイアは、組んでいた脚をもどすと、ゆらり、と裾をゆらして立ちあがる。その仕草には人を威圧するものがあり、我知らずリィウスは息を飲んでいた。
 そして、娼婦の迫力に押されてしまっている自分をたまらなく惨めに思った。
 この館に来てから、想像もしなかった行為を強要され、男娼として仕込まれているうちに、いつしか自分は本当に卑屈な性奴になってしまったのだろうか、と自問する。
(いや、そんなものになり下がりはしない)
 リィウスは両手を握りしめ、自分自身を鼓舞する。
(私はけっして、誇りを失いはしない)
 けっして、こんな女たちに負けはしない。
「早くしなさい!」
「わ、わかった……」
 脅されて従うのではない。自分自身の誇りのためにするのだ。矛盾しているようだが、ここで契約を無視して抗ったり、泣いてしまったりすれば、よけいに惨めになるだけだ。リィウスは腹をくくった。
 屈辱をこらえ、みずから裾をまくりあげ、残忍な女たちののぞむ姿勢を取る。
 額に汗が浮き、手足がふるえるのは仕方ない。だが、歯をくいしばって、どうにか泣くのはこらえた。
「そうよ。いい心がけだわ」
 頭上で、タルペイアの満足そうな笑い声がひびく。

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