燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 ローマの一日は、太陽の光が差す昼間を十二に割ってかぞえられた。七時といえば昼から昼過ぎを指し、九時ごろに晩餐を取る。
 柘榴荘の一番上等な客間で、ディオメデスたちは馬蹄ばてい型の寝椅子に座り、娼婦たちのもてなしを受けた。
 リキィンナとアスパシア、ベレニケがそれぞれディオメデス、アウルス、メロペの相手をする。
 アスパシアの淡い鳶色の瞳に翳がちらつくのは、本当なら自分がディオメデスの相手をしたいからだろう。だが、ここは静かな攻防戦のすえに、先輩娼婦であるリキィンナが主客のディオメデスの杯に酒をそそぐ栄誉をえた。
 女二人のささやかな接戦に、最初から入ることもできないベレニケはこわばった笑みをうかべて、仕方なしにメロペの腕に身をまかせた。青い目には翳よりもほのかな苛立ちが燃えているが、さすがに職業意識でそれを抑えている。
 壁際では竪琴の名手たちが、妙なる調べをつくりだし宴に興を添えている。
 卓の中央には、酢や蜂蜜で味付けされた猪の肉が盛られた銀の皿が陣取っている。クミン、ヘンルーダ、ラーセルなどの香辛料をふんだんに使っているので獣肉臭さがない。野菜や果物、乾酪チーズ、甘い菓子なども華やかに卓の上を飾っている。
 この時代、ローマにはあらゆる食材が世界から集められており、食物栽培の技術も、当代の皇帝が胡瓜を好むので、年中胡瓜を供せるようにと、荷車を玻璃はりでかこった移動式の小型温室がすでに発明されていたほどで、富裕層は食の楽しみを充分謳歌していた。
「皆様、お楽しみかしら」
 頃合いをみはからって、女主人のタルペイアが挨拶に来た。後ろに小柄な従者が見える。
「おお、これは夜の女神のおでましだ」
 すでにかなりきこしめているメロペが杯から葡萄酒をこぼしながら、ふらふらと立ち上がろうとする。
「相変わらず綺麗だな、タルペイア」
「ほほほほ。メロペ様はすっかりご機嫌で」
「おや、その娘は? まだ見たことがないな」
 タルペイアが小声でメロペの耳に囁いた。
「今日が初売りですのよ」
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