燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 こんなあられもない姿をディオメデスの目に晒しているだけでも辛いのに、さらにメロペに見られ、恐ろしいことに、メロペの向こうにはアウルスまでいるのだ。彼の淡い茶褐色の目が、ひどくつめたく光り、リィウスを見下ろしている。リィウスはほとんど恐怖にちかい屈辱に悲鳴をあげそうになった。

 ちっ……!
 腕のなかで震える相手の肌のやわらかさに夢中になっていたディオメデスは、このときまで自分が計画したことをうっかり忘れていた。
 そして、悪友の濁った声を聞いた瞬間、彼にしては非常に――本当に非常に珍しいことに、己のしたことをひどく後悔した。
(よせば良かった……)
 それは勿論、リィウスを買ったことではなく、その現場を悪友二人に見せようとしたことである。
 せっかく、ディオメデス自慢の性技にとろけかけていたリィウスの心身が、一気に凍りついてしまった。そのことをはっきりと知覚してディオメデスは臍を噛んだ。
 おびえた兎のように自分の下で縮こまり、つねの気位も自尊心もなくして、顔をおおって啜り泣きをこらえているリィウスの姿を見て、いたたまれない想いにさせられた。
 ディオメデス=エトルクスが己のしたことを後悔し、いたたまれない想いにさせられるなど、今まで生きてきた短い人生でどれほどあったろう。
 かなうなら、悪友を怒鳴りつけてでも追い出し、腕の下で啜り泣く麗人の唇に接吻し、こわばった心と体をもう一度ほぐしてやりたい。かなうなら……だ。
 だが、それは絶対にかなわない。絶対にできない。なぜなら、ディオメデス=エトルクスは、あくまでもディオメデス=エトルクスだからだ。 
「どうだ? そいつの具合は? いいか?」
 へらへらと笑いながらメロペが千鳥足で近づいてくる。酒の臭いが近くなる。
「まだ試すまえだ」
 毒づいてやりたいのをこらえて、ディオメデスは笑ってみせた。仕方ない。すべては自分で決めたことだ。
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